ガラス玉とダイヤモンド-6
「や……っ」
あまりのことに、ディーナは絶句する。
情事の最中に、自分がどんな姿をしているのかなんて、今まで想像もできなかった。
窓に映るのはせいぜい胸元までだったが、瞳を潤ませて快楽に火照ったいやらしい自分の顔は、とても直視できない。
とっさに目を瞑って顔を逸らそうとしたが、カミルに顎をぐっと固定されてしまう。
「ちゃんと目を開けろ」
冷酷に命じられて、ディーナが恐々と薄く目を開けると、カプリと耳朶を甘噛みされた。
「ン、あぁっ!」
ねっとりと耳を嬲られて喘ぐと、窓ガラスの中でも、赤毛の少女が淫らに身悶える。
「お前は胸の大きさばかり気にして、解っていないな。普段は純情そうなお前が、抱かれる時はこんなに淫乱な顔を見せると知ったら、大抵の男は夢中になるぞ」
耳の穴に吐息を吹きつけながら囁かれ、背筋を駆ける愉悦に、ビクビクとディーナは身を震わせた。
「そ、そん……な……っ!」
震える声で抗議しようとした。カミル以外の男にこんな顔を見せるなんて、考えたくもない。
「わ、たし……ああっ!」
しかし、充血した乳首をきゅっと摘まれて、訴える悲鳴は甘い喘ぎ声に変わってしまう。
クニクニと擦られるたびに痺れるような愉悦が広がり、男を咥えている秘唇の隙間から、また蜜が溢れ出す。
窓にはそこまで写っていないのに、余すところなく痴態を見せ付けられているような気になり、羞恥に消えてしまいたくなった。
カミルが満足そうに目を細め、ディーナを両腕でしっかりと抱きしめる。そして乱れた赤毛の張り付く首筋に顔を埋め、低く呟いた。
「――愛している」
小さな、しかしはっきりと告げられた言葉に、ディーナは頭の先からつま先まで貫かれた。
「……」
声も出せずに、口をハクハクと戦慄かせていると、カミルが顔をあげた。
暗い窓ガラスに映る整った顔は、とても皮肉そうな笑みを湛えていた。赤い瞳に宿る光の暗さに、ディーナはギクリと身を強ばらせる。
「吸血鬼のくせにと驚いたか? 他種族の中で長く暮らせば、寝所で女が喜ぶ言葉の一つも覚えるさ。……もっとも、俺にはどうも理解できん代物だがな」
くくっと、カミルの喉が鳴った。
「だ、んな……さ、ま……?」
「お前になら、大勢の人間や他種族の男が、心からこの言葉を捧げたがるだろうに……可哀相にな」
鏡のようなガラスの中で、カミルがくっと口角をあげる。
「ここにいる限り、お前は俺だけのものだ。契約だからな」
言うなり、カミルはディーナの首筋にまた顔を埋めて強く吸い上げた。
「んんっ!」
すでに幾つも花びらのような赤い痣が散っていた首筋に、また一つくっきりと痕が刻まれる。
「ディーナ。目を逸らさないでしっかり見ろ。お前を抱いているのが誰か」
膝の裏を掴まれて、強く下から突き上げられた。
「や、あああっ!! だんな……さま……あぁ……っ!」
全身を突き抜ける快楽に、ディーナは喉を逸らして悲鳴を放った。大きく見開いた瞳から、ボロボロと涙が零れ続ける。
ここでカミルに仕えて抱かれ、一番近くにいる……ディーナの望みをそのまま口にされたはずなのに、張り裂けそうなほど胸が痛い。
「ひぅっ……あ、あぁ……やぁ……」
耐え切れずに横を向くと、肩越しに不自由な姿勢で唇を奪われた。
「ほら、泣くな。今日は酷くして悪かった」
優しく唇をついばみながら、カミルが囁く。
「これでも、俺はお前を気に入っているんだ。愛とやらは理解できないが、真似事くらいはしてやれるぞ」
チュッと音を立てて、濡れた目尻に口付けられた。
「愛している、ディーナ……こんな言葉一つで、お前が少しばかり楽しめるなら、何度でも言ってやる」