名前の解らない関係-2
(どのみち、旦那さまがもし人間だったとしても、私じゃつり合いそうもないなぁ)
無愛想だが、非常に整ったカミルの顔を思い浮かべながら、ディーナは自分の子どもっぽい顔や貧相な胸をペタペタ触り、つい溜め息をつく。
(さすがにこれじゃ、旦那さまとはちょっと……サンドラ先生くらいだったらともかく……)
妖艶な肢体の美しい女医が頭の中に浮び、同時にツキンとまた胸が痛んだ。
(あ、あれ……?)
思わぬ痛みに、ディーナはまたうろたえる。
サンドラとカミルは、お茶の間によく見れば、恋人というより本当に気がねなしの友人という感じだった。単に、見た目の上質具合がつり合っていると思うだけなのに……。
(やっぱり……恋人とか、そういうのはよく解らないよ)
頭が混乱してきて、柔らかな枕にポフンと顔を埋めた。どうやら自分の頭は、あまり上等でないみたいだと思う。
料理や掃除なら得意だが、読み書き計算は必死に頑張ってようやく困らない程度だし、特に人間関係のことを考えようとすると、途端にディーナの頭は参ってしまう。
大好きな両親が生きていた頃は、仲の良い幼なじみだっていた。
その男の子が大好きだったし、『大きくなったらおよめさんになって』と、言われて、ちょっとくすぐったいような嬉しい気分になったのも覚えている。
でも……農場に連れて行かれてからは、皆に嫌われるようになってしまった。
ディーナのせいで皆のお給金が減ったのは一番の原因だろうが、他にも何かあったのかも知れない。
もしくは、好かれるために何かが足りなかったのか……。
何がいけないのか、散々考えても解らなかったから、いつのまにか考えないようになったし、考える暇もなくなった。
そうしたら、こうして自由になった今になっても、そういうのを考える部分が、すっかり錆び付いてしまったらしい。
この曖昧な関係の名前を、はっきり考えようとすると、頭の中が強張って、上手く考えられない。
恋愛とか、恋人とか夫婦とか、素敵な言葉にとても憧れるけれど、それは自分が触ってはいけないような気がする。
(もし、旦那さまにとって私が……)
―― 恋人だったら、なんて大層な事は望まない。『お気に入りの小間使い』にしてもらえるなら、それでも十分だと思う。