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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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不穏の兆し-4



「それにしても、さすがはあの淫乱女の娘だね。吸血鬼までたぶらかすなんて、たいしたもんだ」

 故郷の村で一番の美人だった従妹を思い出しているのか、憎らしげに唇を歪める妻を、バロッコは部屋の隅の寝台から眺めていた。
 小路で奇妙な青年に投げ飛ばされた後、やっとのことでここまで帰ったが、打ち付けた身体中が酷く痛むので、寝ているしかない。

 今は見る影もないが、妻も昔は評判の美少女だった。
 とある青年に恋をしたものの、優しく控えめな性格をしていた従妹の方が、彼の心を射止めて結婚してしまったらしい。

 彼女がその後すぐ、醜い風貌で若くもないバロッコに嫁いだのは、金目当てだと重々に承知していた。
 ただし、彼女は資産をただ浪費するだけではなく、さまざまな手段を用いて増やすことにも積極的だった。
 結婚して数年後には、妻の方がよほど金稼ぎと悪事の才覚があることを、バロッコは思い知っていた。
 妻が裏から密かに手を回し、従妹夫妻が借金を背負うように仕組んだのも知っている。
 身体を壊した従妹の元へ、優しい素振りで何度も見舞っては信用させ、亡き後に娘を引き取ることを承知させたことも。

 従姉妹そっくりのディーナを農場に引き取り、ことさら辛くあたったのは、昔に敗れた恋の復讐だったのかもしれないが、狡猾で貪欲な妻は、引き取った娘を最大限に活用した。
 低賃金で酷使している使用人たちが、自分達へ不満を爆発させることがないように、ディーナを生贄に使ったのだ。

 鮮やかに、ごく自然に、ディーナが使用人たちから憎まれるように、妻は仕組んだ。
 ディーナの両親が残した借金のせいで、賃金を引き下げなければ農場はやっていけないとボヤいてみせ、あの子は両親から甘やかされ放題に暮らしてきた生意気娘だと、吹き込んだ。
 そして、夫妻がディーナが冷たく扱ってみせると、自然と使用人たちもそれに習うようになった。

 鶏小屋の仕組みだと、妻はある時に笑いながら言った。
 農場という小屋の中へ、一番弱いディーナという鶏を放り込み、皆に突つかせて不満を解消させてやる。
 そして自分達は、ディーナで鬱憤晴らしをした彼らの生む、労働力という卵を美味しく頂くのだと。

 バロッコは心から納得し、ほんの僅か抱いていた哀れな少女への同情心は、すっぱり消えた。
 その頃にはすでに体重の膨れ上がってきた妻を、女としてはとうに見なくなっていたものの、共同経営者としては必要としつづけた。

 農場が傾いてからは不運続きだったが、各地を点々としながら、未だになんとか命と日々の小銭を得られるのも、ギリギリのところで妻が逃れる手を見つけるからだ。
 そういう意味で、バロッコにとって妻はまさしく命綱だ。愛などなくても絶対に必要なものだった。

「しかし、お前……言っただろう? 妙な男に邪魔をされたと。奴が誰か知らんが、おかげでこのありさまだ。もう関わらんほうが……」

 腫れた口元をモゴモゴと動かし、控えめにバロッコが意見を言うと、妻の顔がさっと怒りにドス黒くなった。

「まったく、情けない男だねえ! 探索者みたいな男だったんだろ? ああいう連中は、気まぐれで若い娘に良い所をみせたがるもんさ。そんで一発ヤっちまえば、すぐに次の尻を追い掛け回すんだから、心配するこたぁないよ」

「しかしなぁ……」

 アイツはディーナの名前も知っていたようだと、バロッコはいいかけたが、妻がさらに眉を吊り上げたので口を閉じた。
 バロッコ夫人はフンと鼻を鳴らして、そんな夫を一瞥し、再び色あせたスカーフを巻きつけて、外出の仕度をはじめた。

「あたしもこの街の酒場で、ただゴミ漁りをしてたんじゃないよ。色んな情報を仕入れてたんだから。……そうだねぇ。アルジェントの元締めに取り次いでもらえるか、試してみようか」



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