お茶の時間-2
不意に、彼女のカミルに向けていた親しげな表情と、ごく自然にその隣を歩いていたカミルの横顔を思い出した。
(あ、あれ……? なんか……)
またもや胸の奥にチクンと痛みが走り、同時にぎゅうっと締め付けられるように苦しくなってきた。
とても奇妙な、もやもやした気分が溜まる。
「ディーナさん?」
思わず片手で胸元を押さえると、ルカが首を傾げた。
「っ! ごめんなさい、ちょっと……」
ディーナはサンドイッチが喉に詰まったような素振りで、慌ててティーカップに口をつける。
しかし、流し込まれた茶は、何も詰まっていない喉を素通りするだけで、もやもやを押し流してはくれなかった。
(変なの……)
どうしてこんな風になるのかわからず、俯いてカップを戻した時、勢いよく扉が開いた。
「お待たせーっ!」
ほがらかなサンドラの声に、ディーナはハッとして顔をあげる。
「待たせたな」
同時に、ポンと頭に手を置かれ、いつのまにかカミルが隣に座っているのに気づいた。
「わっ!」
驚いたし、いつもならソファーから飛び上がっている所なのに、とっさにカミルの上着を握り締めていた。
「どうした?」
「あっ! いえ……」
ディーナは赤面し、急いでカミルの上着を離す。
向かいではルカの隣に座ったサンドラが、皿に盛られたクッキーとマドレーヌに目を輝かせ、さっそく両手にそれぞれ取った。
「今日も働きすぎて、お昼なんてとっくに消化しちゃったのよ。お菓子作りまで有能な助手がいるなんて、私って幸せ者だわ〜」
熱心にお菓子を頬張るサンドラは、その言葉通りにとても幸福そうだった。それに、照れ笑いをしながら彼女のカップにお茶を注いでいるルカも。
「相変わらず、仲の良いことだ」
カミルがボソリと呟き、クッキーを一枚口に放り込んだ。
(……あれ?)
急速にディーナを襲った息苦しさが、嘘のように消えていく。
ディーナは内心で首を捻ったが、やっぱり原因はよく解らない。
それから四人でしばしお茶のテーブルを囲んだが、サンドラはやっぱり感じの良い女性だし、見れば見るほどスタイル抜群の美人だ。とても羨ましくて、憧れてしまう。
カミルがあの深い柔らかそうな谷間に、全く興味がなさそうなのが、むしろディーナとしては信じられない。
しかし、とにかく原因不明の息苦しさにはもう襲われず、ディーナは美味しいお茶の続きを頂きながら、肉屋の奥さんから教えてもらった例のおまじないを、やっぱりもうちょっと続けようかなぁ……と、真剣に考えた。