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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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独占欲-3

しまいに、崩れるように眠ってしまったディーナの身体を、カミルは濡れタオルで丁寧に拭う。
 時折、ディーナの瞼がピクンと動くが、疲労しきった彼女は目を覚ますこともなく、そのまますこやかな寝息をたて続ける。

 身体を清め終わると、そっと寝巻きを着せつけてからディーナを抱きかかえる。汗や体液で湿った敷布に、白い鉱石ビーズをはめ込んだ魔道具を押し当て、スイッチを押した。
 魔道具から発した白い光が、またたくまに寝台へ広まって、汚れた敷布や枕まで、全て綺麗にする。

 吸血鬼は陽射しの中へ洗濯物を干すなどできないから、衣類やリネンを清潔にするのには、昔からこうした方法を使うのだ。
 近頃では一般家庭でも、洗い桶のかわりに鉱石ビーズを使った洗濯装置を設置するようになってきたが、ただ洗うだけで、この魔道具のようにはいかない。ディーナも初めてこれを見た時には、たいそう驚いていた。
 もっとも、白い鉱石は非常に入手し辛いし、これを作るのも相当な手先の器用さが要求される。
 鉱石木を操れて希少な色も入手しやすく、なおかつ非常に器用な吸血鬼だからこそ作れる品なのだ。

 カミルは綺麗になった寝台へと、ディーナの身体をそっと横たえる。丁寧に毛布をかけてから、自分もその隣に潜り込んだ。
 ランタンを消した寝室は真っ暗だが、カミルの目はむしろ日差しの中よりも暗闇のほうがよく見える。
 ディーナの寝顔は安心しきったように緩み、とても幸せそうに見えた。

「ん……」

 不意にディーナが小さく呻いて眉をひそめ、眠ったまま何かを探すように、手をさ迷わせはじめた。

「ぅ……だんなさま……ぁ?」

 舌足らずな寝ぼけ声が、カミルの心臓をドキリと跳ねさせる。

「……ここにいる」

 何かを探しているような手を、とっさに握りしめると、ディーナの口元がまたふわっと緩んだ。
 そのままディーナは、特に何も言わずにまた深く眠ってしまったが、カミルはどうしても手を離す気になれなかった。

 魅了の魔法が上手くかかりさえすれば、どんなに自分を嫌っている相手だろうと、簡単に快楽漬けにしてしまえる。
 繰り返し何度もかければ、精神まですっかり壊してしまうことも可能だ。
 吸血鬼の中には、見た目の気に入った人間や他種族を、そうやって『飼う』者もいた。

 カミルとてこの二年の間に、その誘惑にまるで駆られなかったといえば嘘になる。
 いくらディーナに表面的に懐かれていても、根っこでは信頼されていない。最初から信頼の土台が崩れきっているのだから、無理もないことだ。
 ディーナがもっと安心できる他の居場所を見つけてしまう前に、いっそ……と暗い考えが頭をよぎったことも一度や二度ではない。

 しかし、いつもギリギリで踏みとどまれたのは、そんなことをしても自分の欲しいものは決して手に入らないと知っているからだ。
 魔法で無理やり縛り付けた、見た目が良いだけの、空っぽな器などいらない。
 欲しいのは、外見よりもはるかに輝いている、その中身だ。
 散々踏みにじられ、一度は崩れそうになりながら、それでも朽ちずに蘇った、強く美しい心だ。

 だから吸血鬼のカミルと違い、人間であるディーナがその身体に時を重ねていっても、彼女の中身さえ変わらなければ、己が朽ちるまで、ずっと変わらずにディーナを愛するだろう。
 ディーナを愛している。他の誰にも渡したくない。絶対に、永遠に、誰にも。
 けれど……

 ツキンと、胸の奥に棘が刺さったような気分がして、カミルは顔をしかめた。

 この身が朽ちるまで愛すると言っても……それは、どのくらい残っている?

「……はっ」

 カミルは短く息を吐き、不快な痛みを振り払う。
 すやすやと眠るディーナの髪を撫で、そっと額に口づけを落とした。

 ―― 明日は一日中、空に濃い雲がかかりそうだ。吸血鬼が日中にでかけても問題ないだろう。


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