悩み事-2
「うっ、どこって……旦那さまには無関係な悩みですから!」
必死に顔を背けて誤魔化そうとしたが、己のつるペタな胸へ、チラっと視線をやってしまったのが失敗だった。
「はぁ……なにかと思えば。まな板胸の件を、まだ諦めてなかったのか」
途端に呆れ顔となったカミルがため息をつき、寒風のごとき冷ややかな視線を向けてくる。
「わ、悪いですかっ!? 肉屋のおかみさんは、これで二回り以上も胸が大きくなったって教えてくれたんですよ!」
こういう反応が返ってくるのは予想済みだったから、内緒にしたかったのだ。
ディーナはいきり立って力説したものの、カミルの視線はさらに冷ややかなものになった。
「それの効果かは知らんが、肉屋のかみさんなら、年々全体的に膨らんでいるな」
「あ」
至極冷静に指摘され、ディーナの脳裏に、肉屋のおかみさんの巨体がポワンと浮かぶ。
市場で話を聞いた時は、ゆさゆさと揺れる豊満な胸元に目が釘付けとなって、他の丸々とした部分なんか、すっかり意識から弾かれてしまったのだ。
いつも陽気で親切なおかみさんは、確かにディーナとは比べ物にならない巨乳だが、手足や胴回りも、それに相応しい肉付きであり……。
「そんなぁ〜」
ガックリと気抜けした瞬間、視界がクルンと反転した。
「わっ!?」
「悪い部分はあるぞ。俺には無関係とか抜かしたことだ」
ディーナを寝台に押し倒したカミルが、ニヤリと口端を吊り上げた。ディーナの着ている寝間着の上から、胸の突起を指で弾く。
「っ!」
薄い胸の奥へ甘い快楽が突き刺さり、ディーナはとっさに両手を口で覆った。
「どうした? 声を出したいなら、好きに出せ」
申し訳程度の膨らみをやわやわと揉みながら、カミルがわかっているくせに意地悪を言う。
「っ……んん……っ」
ディーナは羞恥に耳まで赤く染めて、必死に首を振った。
魅了の魔法をかけられてしまえば、暴力的なまでに強烈な快楽の嵐に叩き込まれる。
丁寧に愛撫などされなくても、軽く触れられるだけで簡単に達し、しまいには触れられなくても快楽に悶え狂うのだ。
理性も思考も根こそぎ剥ぎ取られ、喉が枯れるほど喘いでも、羞恥心など覚える暇すらない。
だが、双頭鼠の事件から数ヶ月。
あの時の宣言通り、カミルはディーナを抱くようになったものの、魅了の魔法は一度もかけなかった。
「ん……っ! ん、ん……っ!」
何度も擦るように弾かれ、身体の芯がジクジク疼き始める。
ディーナは口を覆う手に力をこめ、身を硬くして声を押し殺す。
こうしてカミルの手によって与えられる快楽は、しまいには魅了の魔法よりもディーナを昂ぶらせるくせに、性急に理性を失わせてはくれない。
カミルに抱かれるのは初めてでもないし、そもそも処女を散らされた時からすでに、魅了の魔法によって散々痴態を晒している。
こんな虚しい努力をしても、執拗な愛撫によってグズグズに崩されてしまい、最後には散々喘がされる。
……それは身に染みているのだけれど、甘ったるい媚びたような自分の嬌声は、未だに恥ずかしくてたまらなかった。
半端に残っている理性が、淫らに堕ちるのを開き直らせてくれない。
「これだけ何度も弄っているのに、俺には無関係? 随分だな」
寝間着を押し上げている突起をつつき、カミルがとびきり底意地の悪い笑みを浮かべた。
どうやらディーナの発言を、しっかりと根にもっているようだ。