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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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*お給金の使い道*-1


 瓶の中に溜めてあるディーナの銀貨は、未だに一枚も減っていない。
 しかし、双頭鼠の件から一ヶ月経った今、その理由は以前の不安さゆえではない。

 不安だからではなく、初めて買う物にふさわしい品が見つからないのだ。自分のお金で買う、初めての買い物だから、とびきり素敵な思い出にしたい。
 そう考えた末に、名案を思いついた。

―― そうだ! 旦那さまへ贈る、プレゼントを買おう!

 大好きな旦那さまへ、自分がプレゼントを贈れるなんて、これ以上に素敵なことは無い。
 となれば次の問題は、なにを贈るかだ。
 贈る時まで秘密にして驚かそうと、ディーナははやる心を抑えて、カミルが茶を飲みながら新聞広告を読んでいる時に、それとなく尋ねた。

「新聞って、色々な広告も載ってるんですねー! そうそう!旦那さまの今、一番欲しいものって何ですか?」

「日光への耐性だ」

 即答である。

「……すみません。なんていうか……もう少し、こう……物質的なもの限定でお願いします」

 やや強張った顔と声で、ディーナは言いなおした。
 できれば、麓の街で買える物に限定したいところだが、そんな風に言えばプレゼントと気付かれてしまうかもしれない。

「物質?」

 カミルは少し怪訝そうな顔をしたが、新聞に目を戻してまたもや即答した。

「それじゃ、オリハルコンだ」

「オリハルコン……伝説の金属っていうあれですか?」

「あぁ。一度見たら忘れられないほど綺麗な金色をしているそうだ。昔、世界中を探し回ったんだが、結局見つけられなか…っ!? 何で泣く!?」
 
 カミルに悪気が無いのは承知だが、思わず涙目になってしまった。

「ううう、何でもありません……」

 −−翌日。
 朝早くからディーナは市場に出かけてしまい、カミルは鍛冶場の中で首をひねっていた。
 聞かれた事に正直に答えただけで、何でディーナを泣かせてしまったのか、いくら考えてもわからない。

(知らん!! 俺は別に悪い事は言ってない!!) 

 無理やりそう自分に言い聞かせ、鉱石ビーズを彫ろうとしたが、どうも手に付かない。
 そうこうしているうちに、ディーナが帰ってきた気配がして、カミルは殆ど無意識のうちに鍛冶場から顔を覗かせていた。

「旦那さま……」
 
 ディーナは驚いたような顔をしたが、ふと意を決したように唇を引き結び、バスケットから何かを取り出してカミルに差し出した。

「な、何だ!?」

 思わず一瞬、辞表かと身構えてしまったが、よく見ればそれはリボンで丁寧に包まれた紙包み。

「気に入らないかもしれないですけど……プ、プレゼント、です! どうぞ!!」

 包みをカミルに押し付けると、ディーナはすぐに背中を向けて台所に行き、バスケットから他の買い物品を取り出し始めた。 

「……?」

 わけがわからんと思いつつ、とりあえず包みを開けてみると、中から出てきたはなぜか金色の飴が一瓶。わざわざ贈答用の包装をされたそれは、菓子にしてはそこそこ値が張りそうだ。 
 甘いものは嫌いでないし、茶菓子も買ってくるようたまに頼むことはあるが、一体これがなぜ……。
 カミルが更に頭の中を疑問符でいっぱいにしていると、戸棚の方からチャリチャリと硬質な音が聞こえてきた。
 見れば、顔を真っ赤にしたディーナが、自分の貯金用にしている瓶を取り出して、中に小銭を入れている。
 大きな丸い銀貨だけだった中身の上に、一回り小さい半銀貨と、茶色い銅貨たちが積もっていく。
……おそらく、釣り銭なのだろう。
 
 ようやくカミルは、手の中にある飴の価値を、正しく理解した。
 この飴は、店でつけられた値段以上に……もっと価値がある品だ。

 カミルは手の中の金色をじっと見つめ、それから昨日の会話を頭の中で思い起こした。

「……オリハルコンは、こんな色だろうな」

 ボソリと呟くと、ディーナが弾かれたように振り向いた。美しい金色の飴を眺めつつ、照れ臭いのを必死にしかめっ面で誤魔化す。

「ちょうど欲しかったヤツだ。……ありがとう」

 瓶を開けて口に入れた飴は、今まで食べた飴の中で一番美味いような気がした。



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