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軽井沢の女
【SM 官能小説】

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軽井沢の女-9

「汗をおかきになったでしょう?お風呂沸いてますからあとでお入り下さいね。」
「うん、ありがとう。」
元のえくぼの可愛い顔に戻った鈴に、村田も思わず目尻が下がる。
真田が自分で手作りしたという建物西側の露天風呂に浸かり、村田はフウーッとひと息ついた。
(こんな手のこんだものよく一人で作ったな、あの人らしい。)
2m四方はある檜作りの風呂に浸かりながら真田の生前を思い出し、目の前に広がる森林の緑に心が和む。真田もこの風呂に浸かりながら日頃の疲れを落としていたのだろうか。
失礼します、の声に驚いてふり向くと、鈴が裸で入ってきている。
「私には何も御礼が出来ませんので、せめてものおもてなしに背中を流させて頂こうと思って…。」
今まで散々鈴の裸と向き合ってきたくせに、まだあどけなさの残る人なつっこい笑顔とそれとはあまりにアンバランスな生めかしいまでに魅力的な白い裸体に、思わず村田は目をそらした。
「い、いいよそこまでしてくれなくても。」
顔を背けながら、年甲斐もなく自分の顔が赤面しているのがわかる。少年時代に初めて女の裸を見た時のような気分だ。
「いいえ、ぜひさせて下さい。私の気が収まりませんので。」
「そ、そうか。じゃあせっかくだから。」
そう言いながらも、まともに鈴の裸を見るのが照れくさく、村田は目線をそらしたまま鈴に背中を向けて洗い場の椅子に座った。鈴はあくまでやさしく丁寧に村田の大きな背中を洗う。
(女と違って男はそんな力では垢は落ちないんだがな。)
心の中で苦笑しながらも、鈴の気遣いが感じられて大変気分が良かった。
「あ、あの…。」背中を流しながら鈴は少し言いにくそうに声を出した。
「もしよろしければ私の…その…身体を抱いて頂いても結構ですのよ。今晩お泊まりになりませんか?」
死んだ真田の替わりに自分を幸福に導いてくれる村田になんとか礼をしたい、しかし自分にはこの体しか差し上げるものがない。そんな気持ちがひしひしと背中から伝わってくる。だが真田以外の男を体内に迎え入れるなど鈴の本心から望んでいることではないだろう。
「う…ん。」
村田は少し間を置いてから答えた。
木々の葉擦りの音に混じって鳥達の声がせわしなく聞こえる。逆に言えばそれ以外の音は一切しない静寂の空間で「少しの間」はやや長く感じられた。
「気持ちは嬉しいがやめておくよ。」
「やはり奥様に悪いですものね。」
沈んだ声で鈴が言う。
「それもある。しかし何より…。」
そこまで言うとはじめて村田は顔を鈴の方に向けた。
「会長を裏切りたくない。」
少し沈んでいた鈴の顔は瞬時に明るさを取り戻し、縦長の大きなえくぼを作り、はい、と嬉しそうに答えた。

帰り支度を終え、車を出してルームミラーを覗くと、白いワンピース姿の鈴は大きく手を降っている。角を曲がって見えなくなるまでそれは続いていた。
「会長、あなたの愛した鈴はますます綺麗になっていきますよ。」
夕暮れ近づく軽井沢の町を抜け、インターチェンジに向かって走り続ける。カーラジオはまた明日から当分の間雨が続くと伝えていた。


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