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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-88

「勇太郎」
 ぴっ、と勇太郎の前に長方形の薄い紙が提示された。
「な、なに?」
「弓子さんからの、気持ちじゃ」
 よくみると、それはトレジャースタジアムの1日利用ペア優待券。ペアで入場すれば、中にあるアトラクションが全て無料で利用でき、各種のサービスエリアも割引にされるという、学生には到底手の出ないプラチナチケットだ。
「い、いいの? これ、かなり高いんじゃ……」
「………“そろそろ、勇ちゃんにもいい人ができてるだろうから、ぜひその子を連れてきてください”………と書いてあったぞ。見たいんじゃよ、きっと」
 もし、彼女がいなかったら、このチケットはどうするつもりだったんだろうか? そんな疑念はともかく、勇太郎はそのチケットを受け取る。
「弓子さんな、『ブラッドハウス』とかいうアトラクションを受け持っているらしい。必ず顔を出して、お礼を言うんじゃぞ」
「う、うん。もちろんだよ」
 チケットを大事に内側の胸ポケットにしまう。その部分が、暖かく感じてくるのは、変わらぬ弓子の優しさに触れたからだろうか。
「そうだ、じいさん。弥生さんから………」
 本当は、最初に渡すつもりだった真空パックの入った包みを取り出す。差し入れにと手渡されていた、弥生の作った押し寿司だ。
それを見るや否や、郷吉の顔は骨がなくなったかのごとく緩みきった。ひょっとしたら、チケットをもらった自分も、そんな顔をしていたのかもしれないと思いながら、勇太郎は押し寿司を郷吉に渡した。





「え、嘘、すごいじゃない!」
 押し寿司の真空パックを返しに隣家へやってきた勇太郎は、応対に出た弥生に感謝の言葉を添えてそれを手渡すと、ひとみを呼んでもらって、彼女に郷吉からもらったペアチケットを見せた。先の言葉は、それに対するひとみの反応である。
 彼女は手にしたチケットを凝視していたかと思うと、透かしも無いのに光に当ててみたり、期日を気にしたりと落ち着きが無い。
「あの、紛れもなく本物だし、それに期間内だから……」
 なにしろ関係者にもらったものだ。
「ちょうど、創立記念日があったよね」
「今週の水曜日」
「その日に行こうかな、と」
「うん!」
 ひとみはこれ以上ないくらい眩い笑顔で快諾した。
「勇太郎、晩御飯は?」
「まだ」
「じゃあ、食べていきなさいよ」
 いいよね、とその場にいた弥生に聞く。もちろん、弥生はなんの逡巡もなくこれを了承した。その時間、わずか0・5秒。
「はい、決まり。とりあえず、あがってよ」
 勇太郎の返事を聞く前に、ひとみはその手を引いて、彼を居間に押し込んだ。
「あ、お兄ちゃん」
 そこではふたみがテレビを見ていた。時間帯どおり、地方のニュースをしている。そこでは、奇しくも、トレジャースタジアムの特集を放映していた。
地元テレビ局のキャスターが、中のアトラクションを順々に回り、体験した印象をいろいろ語っている。主に、絶叫系のものが多いのは、視覚的効果を狙ってのことだろうと勇太郎は思う。そのためか、残念ながら、チケットをくれた弓子がいるという“ブラッドハウス”の紹介は無かった。
「あー、これね!」
 もう中継も終わりそうな頃に聞こえたそれは、ひとみの声。そういえば、チケットを預けたままだ。
「ひとみ、チケット」
「あ、ごめーん」
 ひとみはエプロンのポケットに無造作に入れていたらしいそれを勇太郎に渡す。
 それを見ていたふたみが、敏感に反応した。
「お兄ちゃんたち、TSに行くの?」
「え、う、うんまあ……」
「そうなんだ……今度の水曜日?」
「そ、そのつもりだけど」
 なんだろう? やけにふたみは興味深々だ。極力、人ごみを避けるふたみは、こういう場所にも目を向けないだろうと思っていただけに、少しだけうろたえる。
「御飯できたよー!」
 何とはなしに止まった会話とその後の沈黙は、ひとみの言葉によって払われた。


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