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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-60

「そういうわけだから、あんまり意識しなくていいと思うよ。ここにいるのは、あくまでも安堂郷吉で、僕のじいさんなんだ」
「生意気を言うようになったのう。じゃが、礼をいうぞ、孫よ」 
 そのとき、ドアがノックされた。
「ひとみです。おばあちゃんを、連れてきました」
「おお、そうか。どうぞ、どうぞ」
 やけに上機嫌の郷吉。どうやら、天性の助平心が顔を出したらしい。




「そうかい、それなら挨拶にいこうかね」
 検診を終えた弥生とともに、第三棟へ向かうひとみ。その途中で、勇太郎のおじいさんが、いかに優しくて、楽しくて、暖かい人だということを話して聞かせていた。
「ひとみ、その人のことが好きになったね」
「うん。勇太郎のおじいちゃん、大好きになっちゃった」
 弥生は、あまり異性に心を開かないひとみから、こんな言葉が聞けてよかったと思う。病中の母親を放り出した父親への憎悪は、男性全般へのものに派生していたから、弥生はそれが不憫でならなかった。
誰かを好きになり、誰かのために心を尽くす。その行為は、男女に与えられた至福の行為だというのに――――。
弥生にとって、ひとみが勇太郎と仲良くなり、男女の仲になり、時々は口げんかをしながらも、お互いに労わりあっているところを見るのはとても楽しいことだった。だから、そんな心優しい少年を育てた、彼の祖父に逢ってみたいとも思ったのだ。そして、お礼が言いたい。
 ひとみと弥生は、第三棟のエレベーターで三階に向かい、その出入り口からもっとも遠い309号室の前まで来た。
「ここよ。うん、309号室の安堂さん」
「安堂……」
「そう、私たちと同じ“安堂”さん。おもしろい、おじいちゃんだから」
 少しはしゃいで、ノックするひとみ。だが、弥生はそんなひとみの仕草には一顧だにせず、入院患者の氏名が書かれたプレートを凝視していた。
「郷吉……」
 その名前を、声もなくつぶやく。
 ノックを聞いた郷吉の声が、そのドアから響いてきた。
「おうよ、ひとみちゃんか?」
 ひとみはその声を確認し、中に入る。その後ろに、なにか思案顔の弥生が続いた。
「おう、よく来てくださった!」
 弥生の姿を見て、郷吉の相好は崩れる。
「ワシが、勇太郎の祖父ですじゃ。いつも、孫が、世話になって……」
 ふいに、郷吉の言葉が止まる。いつか、彼は、弥生の顔を凝視していた。それこそ、孔があくほどに。
 そして、それは、弥生も同じだった。
「じいさん?」
「おばあちゃん?」
 勇太郎とひとみの声が重なる。止まってしまった空気が、なにか、妙に張り詰めたようで息が苦しい。
 ふ、と、弥生が微笑んだ。
「弥生です」
その言葉が、緊張している郷吉の力を抜いた。
「や、やっぱりか! そうなんか! あの、弥生………弥生さん、なんか!?」
「はい」
 そう言って、深々と頭を下げる弥生。
「安堂……安堂弥生……そうか……そうか……」
 なんと、郷吉はその目に涙を浮かべているではないか。
勇太郎は、状況がつかめない。ひとみも、何がおきたのかわからない。うろたえる二人を他所に、郷吉と弥生の会話は続く。
「ひとみが、お孫さんと仲良くしてもらって……ほんと、ありがとうございます」
 郷吉は、慌てて目元を拭う。そして、笑顔を作って話をつなげていく。
「そうか、ひとみちゃんのおばあちゃんが、弥生さんとは……。まこと、縁というのは、奇、なりしものじゃ……」
「ほんとに、その通り……」
 ただ、郷吉と弥生が、顔見知りだということはわかった。
 勇太郎とひとみが、置き去りになっていると気づいた郷吉は、二人に言う。


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