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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-49

奇しき運命は、時に避け得ない悪戯を施す。
勇太郎が祖父を見舞える日と、ひとみが祖母に付き添う日とが重なった。
二人とも、行く先は同じ病院だ。何の問題があろうか。勇太郎は、その日、確かにそう思っていた。
「あれ? ふたみちゃんは?」
 勇太郎は、せっかくだからふたみも誘おうとした。しかし、その顔が見えない。
「ん? お泊りで、おでかけ」
「そうなの?」
「文芸部のね。合宿という名の、夏旅行」
「………」
 それは、何処かで聞いた話だ。
「勇ちゃん、お待たせ」
 弥生が居間に姿を現す。相変わらず穏やかな人である。そういえば、ふたみの雰囲気と似ている気がするなぁ、と今更ながらに思いつく勇太郎であった。
「じゃ、行きましょうか?」
 そして、三人は、まずは城南駅に向かった。
 城南と名は付くが、実のところ行く先は城南町ではない。電車で十五分揺られ、バスで十分揺られ、ようやく辿り着く隣町の山の手にあるのだ。
「勇ちゃんのおじいちゃんも、同じ病院だったとはねぇ」
 幸い三人が隣り合わせで座ることの出来たバスの中、弥生が口を開く。
「同じ安堂さんで、同じ病院。……これも、縁かしらねぇ」
「そうですね」
 そのことを作為的に黙ってたわけではないが、何か、隠し事をしていたような後ろめたさを感じてしまう勇太郎。考えてみれば、弥生には祖父の名前さえ告げていない。
 しかし、なんとなくそのことを言いそびれたまま、時間は過ぎた。
「ひとみ、粗相のないようにね。嫌われたら、勇ちゃんに、もらってもらえなくなるよ」
「お、おばあちゃん!!」
 そんな勇太郎の軽い憂鬱を尻目に、からからと笑いあう祖母と孫。ほんとうに、仲が良い。
 そうこうするうちに、バスは坂道を登り終え、白い建物の前で三人を降ろした。
「ひとみ、第三棟の三階。309号室の安堂さんだから」
 勇太郎は、弥生の付き添いで第二棟にある内科へ向かうひとみに伝えておいた。弥生の検診は、意外に待ち時間が長い。それを弥生も知っているから、
「わたしは、いいから。行って、ちゃんと挨拶しておいで」
 と、ひとみに言っていた。
「ダメだよ、おばあちゃん」
その申し出は嬉しかったが、祖母を最初から最後までひとりきりにするのは忍びなかったので、せめて内科までは一緒に行く、と、ひとみは勇太郎と別行動を取ったのだ。
 勇太郎は、第三棟に入ると階段に向かった。じつは、エレベーターよりもこっちのほうが早い。
(人の能力は、ときに機械を凌駕する……)
単に、郷吉の病室が、階段のすぐ傍だという話だ。
ともかく、3階へと足を運ぶ。疲れなどは、微塵も感じない。慣れたというのもあるだろうが、それ以上に勇太郎は若いのだ。
「きゃあああ!!」
 3階の廊下を右手に見たときだ。若い娘の嬌声が聞えた。
(まさか……)
 その声は、とても近いところから発せられたようだ。悪い予感が、彼を襲う。
「ほんとにもう! いい加減にしてくださいね!! 安堂さん!!!」
 予感が当たり、勇太郎は頭が痛くなってきた。
 がちゃ、と乱暴に開けられたドアから、看護師が姿を顕わす。その端正な顔が予想通り、いかめしく引きつっている。
「ど、どうも」
 目が合った。
「あら、勇太郎さん」
 すぐさま、看護師の相好が、愛らしい天使のものとなった。
「こんにちは」
 しかし、こめかみの青筋は隠せていない。勇太郎は、その看護師の固い笑顔に、恐縮してしまう。その原因を、知っているから……。


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