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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-170

 時、というものは何人にも平等である。
郷吉の、死。
勇太郎たちにとって耐えがたいその瞬間さえも簡単に飲み込んで、世の時は未来へ向かって進んでいた。
郷吉の葬儀は、身近な関係者だけが寄り合う質素なものにした。いつのまにかしたためられていた遺書の中に、故人の遺志が記されてあったからだ。事務その他もろもろについては、弓子が引き受けてくれた。それは弓子自身による申し出だったのだが、勇太郎や弥生は快く承諾してくれた。彼女は個人の遺志に応えるように、滞りなく全ての段取りを組み、葬儀を無事に終わらせた。
 郷吉の遺骨は、まずは安堂の旧宅にしばらく置かれた。故郷の家に、ついに戻ることのなかった魂を慰める意味をこめて、そうしたのだ。そして、一月ほど後に、安堂家の墓へと納められた。
納骨の日、まるで先に逝った家族たちの元へと戻る郷吉を見送るように、天は晴れやかな空を用意してくれていた。
 それらを全て済ませ、再び日常が戻ってきた。あの、慌ただしかった時間を忘れたように、本当に安穏と流れてゆく日々。
ひとみもその中に、いつか飲まれていた。
「あれ? 安堂勇太郎は、今日も休みか?」
「え?」
「今日から忌引きあけになるからって、休み前に本人から連絡があったんだが……」
担任の杉林の言葉を聞いたとき、勇太郎が時の流れに取り残されているような気がして、不意に湧いた不安にひとみは心細くなった。





「入るよ」
 ひとみは、勇太郎の部屋の前で逡巡していたが、意を決してその中に身を入れた。昼にも関わらずカーテンが閉められたその部屋は、思ったよりも散らかってはいなかった。
 あれから――――
 郷吉の葬儀を済ませ、忌引きで学校を休んでいた勇太郎だったが、それがあける頃になっても登校して来なかった。彼の気持ちを考えて、元気になるまで必要以上の接触を我慢していたひとみだったが、さすがに心配になって勇太郎の部屋を訪ねたのだ。
 彼の部屋に入ったのは、あの日、郷吉が亡くなる前日の夜以来だ。彼の家に来ることはあったが、いつも玄関で用事を済ませるようにしていた。
 あの時は、まるでその後に激動の日々が来ることなど考えつかないまま、無邪気に身体を寄せ合って、暖かさをわけあっていたのに……。ひと月にも満たない出来事だったというのに、随分と昔のことのように思えた。
「ああ、ひとみ……」
「勇太郎、学校サボっちゃダメよ」
 わざと、明るく言ってみる。
「ああ、ごめんね……」
 勇太郎は応えたが、遠くを見ていた。ひとみには窺い知ることもできないほど、遠くの何かを。
「………」
 生きながら、まるでこの世の住人ではないような、その存在の頼りなさにひとみは不安になった。
「勇太郎」
 だから、彼の身体を後ろから抱きしめていた。そして、静かに頬を寄せた。
(あ……)
暖かい鼓動を感じる。大丈夫。彼は、生きている。
「………心配した?」
 勇太郎が、戻ってきた。抱きしめている自分の腕を、優しく撫でてくれる。
「うん」
「ちょっと、お別れに時間がかかってたんだ」
「おじいちゃんと?」
「ああ」
勇太郎は、部屋をぐるりと見回した。
「じいさんとは結局この家で過ごすことはなかったから、今までとあんまり変わらないなーと思ってたんだけど、やっぱり、ね、なんか足りないなーって、そういう寂しさみたいなのが、なかなか取れなかった」
「………」
「でも、もう大丈夫」
「………」
「ひとみが、そばにいるから」
「っ」
 ひとみは、強く勇太郎にしがみついた。
彼は、とても大きい。郷吉の死に対して、自分の中でしっかりとけじめをつけて、前に進もうとしている。
学校にこなかったとき、ひょっとしたら部屋に篭りきって、ひとりで沈み込んでいるのかと思っていた。だけど、違ったらしい。けじめをつけるための時間が、思ったよりも必要だっただけだ。


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