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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-168

「よいか。人の縁の始まりは、人の力だけでどうとでもなるものではない。ワシは運命論者ではないが、人と人の関係においては確かに別の力があると思っている。それが、“出逢い”というものなんじゃろう。それがいい方向へ傾くか、悪い方へ舳先を向けるのかということに人の力は試されるのだろうが、“出逢い”こそは正に“運命”によって左右するものであろうと、この頃は強く思う」
「………」
「お主が目にしたもの、体で感じたことは、全てが“出逢い”と思え。一期一会という言葉があるじゃろう? あれは正に人の真実よ。人の縁を、強く感じるのじゃ。それできっと、お前はもっと幸せになれる」
「じいさん……」
「わかったか?」
「……わかった」
勇太郎は、祖父の言葉を心に刻みつけた。“出逢い”“人の縁”“一期一会”……全てを理解したわけではないが、その言葉を強く胸の中でかみ締めてみる。
「じいさんの言ったこと、よく覚えておくよ。考えてみれば、僕もいろんな人のおかげで、今の自分があるんだもんね。それに、じいさんがいなかったら、僕は生まれていないわけだし……ひとみにも逢えなかったわけだしね」
独り言のような勇太郎の呟きが終わると、郷吉は厳しい顔を崩した。手招きをするように手を振り、寄ってきた勇太郎の頭を優しく撫でる。
「あ……」
郷吉の大らかな暖かさを感じる。随分、久しぶりに頭を撫でられた気がする。
「素直で、物分りの良いところも、父親とそっくりじゃ」
「じいさん……」
「無理をしてまで、偉い人間にならずとも、巨万の富を築かずとも良い。お前とお前の周囲の人が、いつでも明るく笑っていられるように、幸せになってくれればそれでよい」
「………」
「ワシの望みは、お前の幸せなんじゃから」
 勇太郎は、涙が溢れた。郷吉の暖かさが、心にしみたから。
「……なんじゃ、泣かせてもうたか?」
「う、うん」
「よしよし。今日は、ワシに存分に甘えてよいぞ。……ひとみちゃんのようには、いかんけどな」
「じいさん……」
言われるまま、祖父の胸に頭を預ける。確かにひとみのようなふくよかさはないが、それ以上の逞しさと大きさで、自分を包み込んでくれる。
(じいさん……)
祖父であり、父であり、家族の全てである郷吉。自分にこの人の血が受け継がれていることを、勇太郎は心から嬉しく思った。
「勇太郎。ワシもお前のおかげで、幸せなんじゃ」
「………」
「ありがとう」
「じいさん……」

 “ありがとう”

その言葉が勇太郎の胸に深く染み込んだとき、それは涙に姿を変えて、勇太郎の頬を濡らし続けた。………』





 夜―――。恐れていたことが起こった。
 穏やかなものだった郷吉の呼吸が突然乱れた。まるで、荒波にもまれながら必死に息を継ぐように、苦痛を息で訴える。
場は、騒然となった。すぐに杉原が様々な処置を行うが、どれも効果を示さない。
勇太郎も、ひとみも、ふたみも、弥生も、話を聞き駆けつけていた轟親子も、苦しげな呼吸の中で残された命にしがみついているようにも見える郷吉の姿を、何もできずに見守るだけだ。
「じいさん!!」
郷吉の手が、何かを求めて伸びてきた。勇太郎はそれを掴むと、まるで思い出したかのように祖父を呼び始めた。身体から遊離しようとしている魂を引き戻そうと、必死に叫びかける。
その勇太郎の姿に、場の人間たちは声を殺して泣いた。
「郷ちゃん! 郷ちゃん!!」
たまらなくなった弥生もまた、その身体にしがみつく。
従姉として、想い人として過ごした日々。やむなく悲しい別れを迎えながら、それでも新しい絆と幸福を与えてくれた人。


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