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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-148

 ところが、これが安美にとっては不幸なことになってしまった。
 今思えば、弥生の不覚は、安美をひとりで嫁がせたことにあっただろう。安美は自分たちと一緒に生活しようと言ってくれたのだが、父の匂いが残るこの借家を離れることは忍びなかったし、また、二人の結婚生活に割って入るようなことも避けたかった。
 最初の頃は、安美たちもよく訪ねにきてくれたし、音信もあった。しかしそれは次第に途切れがちとなっていった。そんな不安の中で、それでも二人の幸福を願った弥生の祈りだったが、それは届かなかった。
 安美が再び弥生の下へ戻ってきたとき、彼女はすっかりやつれ、疲れきった顔をしていた。そんな彼女を支えるように、すがりつくようにしていた二人の幼い女の子の、冷えきった表情を今でも忘れられない。
 すぐに弥生は、安美の夫に事情を質そうとした。しかし、連絡が取れない。実はこのとき、安美の夫は愛人とともに海外の人となっており、日本にはいなかったのだ。
 とにかく弥生は、安美を休ませた。そして、二人の孫娘を暖かく迎え入れた。
 最初はなにも表情を浮かべず、寄り添うように蹲って遊ぼうとしない二人だったが、弥生の必死ともいえる優しさと暖かさに触れてゆくうちに、次第に子供の顔を取り戻していった。
ただ、母親の安美だけが抜け殻のように床に伏せり、弥生がどんなに語りかけても、遠くを見るような目で、呆然としているだけだった。弥生は、言い知れぬ不安と戦いながら、それを孫娘たちに悟られないよう、精一杯普段の自分であり続けた。
 ……悲劇は、すぐに訪れた。
孫娘二人と、散歩に出かけてから戻ると、家の前が騒然としていることに気がついた。慌てて弥生がその場へ向かおうとすると、消防隊と思しき人に身体を止められた。“危険だ”と、そういうのである。
 見れば、周囲の人が一様に布キレを口元に当てていた。弥生もまた、なにやら異臭を感じた。
 ガス―――。その瞬間、弥生の背筋は凍りついた。
 救急隊員のひとりが、弥生を呼んだ。中にいた犠牲者の搬送先を、伝えるためだ。
 犠牲者――。確かに彼はそう言った。弥生は、もう、目の前にある事実に、全ての感覚を麻痺させることでしか、正対することができなかった。
 娘の死。対外的には事故となったが、おそらくは、自ら招いたもの。あまりにも衝撃の大きすぎる事態に、弥生は震えた。ここまで娘を追い込んだ彼女の夫の不誠実さと、安美をたったひとりにしてしまった自分の愚かさに、自分の身体を引き裂いてしまいたいほどの憎しみに包まれた。今までにないほどの憎悪に、弥生は悶え苦しんだ。
 そんな彼女を救ったのは、二人の孫娘である。まだ母を喪った事実をそれとわからない、無垢な表情。そんな二人のすがりつくような眼差しが、自分の中を巣食っていた負の感情を洗い流してくれた。
 弥生は、安美の身辺整理を済ませ、ふたりの孫娘を自分の養女とし、住居も新しく移すことにした。このときは、安堂の旧宅ではなく、別の部屋を借りることにした。事情を聞きつけた杉本や根室夫妻が、世話をしてくれたのだ。
 安美の夫はどうなったのか? それは杉本が調べてくれていた。なんと彼は無残にも、海外で愛人の夫に殺害されてしまったそうだ。因果応報という言葉はあるが、生命を奪われた婿に対し、なにがしか憐憫の情が浮かんだ彼女は、やはり優しい人である。
 事態が収拾して、弥生は二人の孫娘の養育に専念した。母親がいなくなり、家も変わったことに情緒を乱した時期もあったが、次第に落ち着きを見せ、男性に対する異常なまでの警戒心を除けば、二人は真っ直ぐに成長していった。
 上の孫娘・ひとみが、城南町にある進学校・私立城南学園へ進学したとき、弥生は旧家への転居を考えるようになった。ふたみはまだ中学3年生だったので、最初はひとみだけを先にその家に住まわせようと思ったのだが、ふたみが姉と離れたくないというので、結局は全員で転居することにした。


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