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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-135

 その夜、初めて郷吉は百合子を抱いた。
守り続けた操を、ようやく捧げることができた彼女は、郷吉の腕の中で静かに泣いていた。
そのまま、あまり動かずに、郷吉は百合子の中で果てた。想いの全てを注ぐように、溢れ出す熱さを百合子の中へ。
その瞬間、裂かれるような痛みがまだ身体中に満ちているにも関わらず、彼女は穏やかな微笑を浮かべてくれた。
 お互いに、こんなにも心満ちた暖かい夜は初めてだった。縛りつけていた精神の鎖は砕け散り、その想いを阻害するものなどもう何も存在しなかった。
 それからは夜毎、性欲を満たしあった。最初こそは、痛みと恥じらいばかりが顔を出していた百合子も、何度も身体を重ねてゆくうち、急激に性の華を開かせてゆき、郷吉の胸の下で艶やかな歌声を奏でるようになった。
 郷吉はそんな百合子を心から愛した。それこそ、家にいる間はずっと彼女に触れていたかったほどに。
今まで知らず押さえつけていたものが、活火山のように愛情と情欲を吹きあげて、余さずそれを百合子に注ぎ続けた。



「あー、百合子……」
 帰ってくるなり、げんなりしたような郷吉の様子に、百合子は不安になる。何か、大きな失敗をしたのではないだろうか、と。
「来週から、1ヶ月出張になってしまった」
 しかし、すぐにそれは安堵に変わった。そして、1ヶ月という期間が、今の二人にはとてつもなく長いものだと気がつくと、今度は寂しさが溢れてきた。
「うーむ……1ヶ月か……」
「お仕事じゃないですか。しっかりしてください」
 夫の上着を受け取りながら、寂しさを胸に押し込んで奮起を促す。
「なあ……なんなら、一緒に……」
「ダメです。それでは、貴方のためになりません」
 百合子は、優しくて厳しい。
3年目にしてようやく初夜を迎えて以来、彼女の優しさは変わらず、いや、それ以上に郷吉を包み込んでくれる。しかし、例えば、仕事のことで誰かに責任を押し付けたような弱音を吐くと、ぴしゃりと叱ってくるのだ。……そのあと、優しく抱きしめて自信を持つように励ましてくれるものだから、郷吉はそんな百合子に甘えることしきりだった。
「むむむ……」
「もう、しょうのない人ですね」
 百合子は郷吉の前に立つと、す、と唇を寄せてきた。
思いがけない妻の柔らかい一撃に、郷吉は唖然とする。
「あ、あら……効きませんでした?」
 頬を朱に染めて、自分の行為に恥じらう百合子。郷吉は、完全に轟沈し煙を吹いた。……まだ夕餉も風呂も済ませていなかったので、その場で押し倒すことはやめておいたが。
 それらを手早く済ませ、待ちに待ったお床入り。
百合子は身だしなみを整え、郷吉の傍に正座する。そして、三つ指そろえて静々と頭を下げてから、既に横になっている郷吉の隣に身を寄せた。
「百合子」
「あっ……」
 すぐに、愛妻の身体を抱き寄せる。湯上りの香り、しなやかな柔らかさが胸いっぱいに広がった。
 この暖かさに、来週から1ヶ月も触れられない……郷吉は、まだ出張に出てもいないのに、寂しさで挫けそうだ。
「百合子……」
 愛しい妻の名を呼んで、その唇を塞ぐ。百合子は静かにそれを受け止めた。
「ん……ん……」
 こもった吐息に、喉が鳴る。その音を聞くだけで、郷吉はもうたまらない。
「百合子……」
「はい………」
 百合子もまた、郷吉の澄んだ瞳に吸い込まれそうになっていた。
初めて出会ったときから変わらない瞳。誰にも構ってもらえなかった寂しさを埋めてくれた、優しい瞳。会ったばかりの自分を母親から庇ってくれた、力強さを秘めた瞳。
あのときから、百合子は郷吉をずっと胸に焼き付けていた。それが、こうやって目の前にある。とても、幸せで、暖かくて、泣いてしまいそうになる。
 この瞳を、1ヶ月も見ることができない……ふいに、溢れた哀しみに潰れてしまいそうになる。
「あ……」
 涙が、零れてしまった。
「百合子」
「ご、ごめんなさい、わたし……」
 一度こぼれてしまえば、止め処ない。溢れる涙が、次々と頬を濡らしてゆく。


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