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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-133

 そして、宗太郎から預かっていた事業さえ、彼に返却し、郷吉はついに“ただの人”となったのである。借金を全て清算した後に残った、安堂家の敷地と相当のあいだ安泰に過ごせる分の財産が、彼の全てであった。
その後、編集記者として就職したが、それは安堂家のある城南の地にはなく、そこで早速、余った分の財産を使い、土地を買い、家を建てて移り住んだ。
離れることになった安堂家の敷地も、重荷になる分は切り分けて、特に恩顧の深かった使用人たちに譲りわたした。しかし、郷市と弥生が住んでいた土地はそのままにしておき、そして、その隣の区画にいつか帰ってくるための場所として同じ大きさの土地を残しておいた。これが後に、隣り合う安堂家を演出することになる。
 不憫だったのは、妻の百合子である。今をときめく安堂家の後継者の嫁として迎えられながら、結局は編集記者の妻になってしまったのだから。
だが彼女は、変わらぬ貞淑さで郷吉に仕え、新しい土地での新しい生活にもしっかりとなじんでいった。郷吉がこれだけ思い切った行動に出られたのは、彼の全てを受け入れた彼女のおかげでもあるだろう。
 実は、百合子に父・宗太郎の下へ帰ることを勧めたこともあった。しかし、そのときばかりは彼女も気色を変えて反発し、共にあることを強く望んだ。
そのことについて、宗太郎にも相談したことはあったが、彼もまた、娘と同じ意見をもっていた。
『自分は、安堂という家名ではなく、安堂郷吉という人物に娘を託したのだ』
そう岳父に諭されたとき、郷吉は心から恐縮したものだ。

全てがようやく落ち着いて、郷吉の周辺も穏やかなものになった。記事にするための取材を黙々とこなしながら、本に囲まれた生活を送る郷吉。その生活は満たされたものであった。
だが、ただひとつ残った問題があった。夫婦の問題である。
仲が悪いというわけではない。むしろ、仲睦まじい若夫婦として羨望の眼差しで見られるほどだ。
 問題とは、夜の生活である。なんとこの夫婦、結婚してより3年間、一度も交合したことがない。つまり、肉体関係がないのである。
 郷吉は、どうしても百合子を抱けなかった。女性としてみれば、彼女は誰より魅力的だ。それなのに、いざ触れようとすると、どうしても弥生の顔が浮かんでしまう。かすかに湧いた肉欲を、微塵もなく霞ませるのだ。
 郷吉の迷いや苦悩を、百合子は知っていた。しかし彼女は、女性の影に縛られている夫に何一つ不満を漏らすことなく、貞淑な妻であり続けた。
そんな百合子に、いつか郷吉も甘え、夫婦でありながら夜の生活がないということの異常さを、それとは感じなくなってしまった。
 だが、その不自然な関係も、清算のときは来る。
その日、取材が思ったより早く終わり、一度郷吉は家に戻ろうと決めた。なにしろ今日は真夏日である。随分と汗を吸ったシャツが気持ち悪く、ついでに軽くシャワーでも浴びようかと考えていた。
「ただいま」
 がらがらと玄関の扉を開け、中に入る。いつもなら妻の百合子が出迎えに来てくれるのだが、さすがに予想もつかない時間帯の帰宅だっただけに、何の声も戻ってこなかった。
「ま、仕方ないよな」
 郷吉は構わず靴を脱ぎ捨て、中へと進む。まずは着替えのシャツを持ってこなければ……。
「あっ……んっ……」
 ふいに、耳が何かを捉えた。それは、衣類を仕舞う箪笥のある部屋から聞こえる。
 郷吉は、その部屋の近くにより、衾の取っ手に手をかけた。
「あっ、あうっ……んぁっ………」
 今度ははっきりと聞こえた。女性が切なげに喘ぐ声。それは、性の昂ぶりを示すもの。
「!」
 郷吉は、隙間をわずかに作り、中をのぞき見た。
「あぅ……あなた……あなたぁ……んっ、くぅ……あっ、あはぁ……」
 百合子がいた。彼女は新しい住居に移ってからも和服で生活していたが、その着物の胸元と裾をはだけさせ、股間を指で弄っていた。
何か白いものを口元に押し当てている。


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