投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

『Twins&Lovers』の最初へ 『Twins&Lovers』 127 『Twins&Lovers』 129 『Twins&Lovers』の最後へ

『Twins&Lovers』-128

『………

「お帰りなさい、父さん」
「おお、息子よ。変わりはないか?」
 大柄な体格と、立派にはやした顎鬚。朴訥とした顔つきで表情が豊かであるとはいえないが、全てを包んでくれる大らかな雰囲気を持っている。
 安堂郷治。世界中に事業を持ち、それを切り盛りしているやり手の実業家であり、郷吉の父親である。
「よう兄貴」
「郷市か。すまんな、留守を預かってもらって」
「なあに。俺のほうこそ、兄貴のおかげで生きていられるようなもんだ」
 郷市の姿を確認した郷治は、すぐにその傍により、彼の細い肩を抱きしめた。
「お、おいおい。大袈裟だな」
「欧米では、こうやって親交の意を表すのだ」
 そういって、何度も何度も背中を叩く。細身の郷市は、息苦しそうに、それでも笑っていた。二人は本当に仲がいい。名家の兄弟にしては珍しいほど。
「弥生は、元気だったか?」
「はい叔父様」
 郷治は、郷市の傍らに静々と控えていた弥生の肩も抱きしめた。彼にとってこの姪は、娘も同然だからだ。
「これを、お土産にもってきた」
 ふいに郷治は、胸元から透明な結晶石のペンダントを取り出すと、弥生に手渡す。
「これはね、アフリカのとある鉱山からしか取れない、“幸運を呼ぶ石”なんだよ」
「……素敵な色ですね」
 薄桃色に光るその石を、灯にかざしながら弥生は言う。
「色によって、持ち主の幸運をそれぞれ豊かにしてくれるのだ。弥生の色が示すのは、“良縁に恵まれるように”という意味がこめられているんだ」
「………」
「弥生も、もうすぐ23。そろそろ、いい話があってもいいだろう」
 どうなんだ郷市? と目線で弟に訊く。
一瞬、難しい表情をした後で郷市は、
「そうだなぁ……連れてこいと言うのに、弥生のヤツはなかなか男を家に呼ばんね」
「………」
 話をごまかしていた。彼は、郷吉と弥生の関係を知っているはずなのだから。
 ということは、二人の関係は、必ずしも郷治に歓迎されるようなものではないと、この聡明な叔父は考えているのだ。
「よかったら今度、財閥の集まりに参加させてみようと思っているのだが? 弥生ならばきっと振り向く者も数多いだろう」
「ああ、兄貴。それは無用の話だぜ」
「そうか……。ふふ、お前ならそう言うと思ったよ。それに、弥生もその気ではないようだからな」
 弥生の心浮かない表情を見つけ、“勇み足だった許せ”と言うや郷治はその話を引っ込めた。完全に、郷吉と弥生のペアリングは念頭にない様子である。
「郷吉、今日はお前に紹介したい人を連れてきた」
「え?」
 ふいに話をふられ、郷吉は困惑した。そういえば先程から、慇懃に父の傍で話を待っている紳士がひとりいるではないか。
「わたしの事業を手伝ってもらっている、泉小路宗太郎くんだ」
「郷吉君、久しぶりだね」
「え……?」
 眼鏡のしたの瞳が、まるで旧年来の友人と再会したかのような親愛を込めた微笑に緩んだ。とても上品な、笑顔である。
「覚えてないないかな? ……無理もないか、もう十年も前の話だからねぇ」
 少し残念そうだ。その表情が申し訳なくて、なんとか記憶を掘り起こしてみる。しかし、どうにも思い出せない。
 視線をさまよわせるうちに、その泉小路なにがしという人の脇に隠れるようにして、恥じらっている少女と目が合った。
淡い藍色の着物に身を包み、長い髪をリボンで結わえた可憐な少女。視線が合うと、少女はますます頬を染め、慌てて顔を伏せる。その仕草が、とても愛らしい。


『Twins&Lovers』の最初へ 『Twins&Lovers』 127 『Twins&Lovers』 129 『Twins&Lovers』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前