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a village
【二次創作 その他小説】

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J-4

「じゃあ、準備体操はじめ!」

 威勢のよい掛け声と共に、子供逹が国民体操を始めた。
 雛子も合わせて、身体を動かしている。
 既に心は此処を離れて、別の所へ飛んでいた。

(そう言えば、ちゃんと気付いてくれたかしら……)

 吉岡の事に思いを馳せていた。

 自分の“計画”が、この村で実現可能なのかを専門的見地に立って、調査、判定を下す。それだけでも、大変な労力を要する。
 しかも、兄、光太郎への恩返しだからと、報酬は要らないと言う。とても有り難い心遣い。雛子は、せめて吉岡の手助けをしたいと考えた。

 そこで自宅へと招き、夕食と風呂という、慰労をと考えた訳だが、吉岡は入浴の際、着ていた服を洗い、干し場に残していったのだ。
 昨夜は、夜露が当たらない様にと軒下に干し直したが、今朝、それを伝えるのを忘れてしまったので、気になっていた。

「先生!体操終わったよ」

 子供逹の声が、雛子の思考を引き戻す。

「じゃあみんな!川に入って。何時もと違うから、気をつけるのよ」

 水に入ると同時に、幾つもの奇声が挙がった。
 日射しを浴びてキラキラと輝く水面に、子供逹の笑顔が咲いている。

「せんせい、ホラッ!」
「きゃあ!」

 男子の一人が、両手で水を掬い取り、川縁の雛子目掛けて勢いよく放った。
 果たして水は、物の見事に雛子の顔面を捉えた。

「もう!何するのよ」

 頭から水を滴たらせる雛子。子供逹が一斉に笑い出すと、向こう岸に待機する林田も、一緒になって笑っている。

「何笑ってるんですか!林田先生」
「ハハハ!……だって、その格好。ま、まるで濡れ鼠みたいで!」

 林田の例えが音頭となり、再び大きな笑い声が挙がった。

「まったく、もう……」

 むくれ面のまま、乱れた髪を手櫛で整えると、未だ、余韻の中に有る子供逹に向けて手を鳴らし、注意を促す。

「はい!ここまでにして、一人づつ泳いで見せて」

 初めて水着を着けた水練の授業は、こうして始まった。
 この先、様々な諸問題が挙がる度に、将来の水着に反映されて行くのかと思うと、雛子は「今更ながら、大変な役割を頼んでしまった」と、身の引き締まる思いがした。

(でも、兄さんのおかげで全てが進み出したんだし、感謝しなきゃ)

 水面に目を凝らす雛子。眩し気なその眼差しは、これから待ち受けるであろう困難に、“負けまい”とする気概を覗かせていた。






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