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N県警察
【サスペンス 推理小説】

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N県警察〜粛正の夏・都築啓介の章〜-2

 夕方4時、都築は単身、交通部長公舎に乗り込み仁科裕明を逮捕した。当然ながら、裕明は犯行を認めた。
 6時過ぎ。案の定N県警本部や光ヶ丘署にはN日報や朝売、毎日経済など各新聞社や週刊誌、TV等の報道機関が殺到していた。
 記者会見は夜9時から本部2階記者室で行われる予定らしい。
 都築は仁科裕明と共に署内の取調室にいた。
「カツ丼とか出ないんスか」
「食いたいなら自腹で食え」
「金ないんスよ」
「大学生だったな」
「はい。あーあ、カツ丼食えねえんなら、もう帰して下さいよ。犯行認めたからいいでしょ」
「残念だがお前は家には帰られない。今日はウチで寝てもらう」
「まさか」
 父が何とかしてくれる。この後に及んで裕明はそうゆう態度をしている。若しくは部屋の外で待機している弁護士に、刑事を煽る態度をとれと耳打ちされたか。
「お前、そうやって今まで生きてきたのか」
「父さんの名前を出せば皆ビビって何も出来なくなるから。あんたもそうだろ?それにしてもあの女、絶対声出さずにされるがままだと思ってたんだけどな。やめて下さいなんて言いやがって。まあ何にしても早く俺の逮捕歴消して、誤認逮捕でしたって公表しろよ。そしたら父さんもまだあんたを━━」
「づいてんじゃねえぞ!由美子を傷付けやがって!知ってるか!痴漢被害者がどれだけ恐怖し、どれだけ助けを求めるのに勇気がいるのかを!親父の権力?あんな豚関係ねえ!てめえの親父も直に逮捕される!親子揃ってくたばれやクソが!」
 勢い良く席を立ち、壁に裕明の背をあて、胸ぐらを掴みながら怒号を飛ばした。
 調書を書いていた松原が慌てて止めに入った。
 裕明は雄弁だった先程とはうって変わり、ガタガタと震えだしその場に座り込んだ。
 犯行は認めた。調子に乗り過ぎた「子供」も潰した。裕明に対する自分の仕事は終わった。ここからは検察の仕事だ。
 都築は松原に「すまん」とだけ言い残して取調室を出た。
 その背を見ながら松原は思った。
 協力者は誰だ?
 現行犯逮捕と緊急逮捕を除いて通常、逮捕する際には逮捕状が必要となる。
 逮捕状は裁判所で発付されるのだが、この時に警察が請求する場合は階級が警部以上の者でなければならない。
 都築は警部より2階級下の巡査部長だ。逮捕状請求は出来ない。
 都築は、推定無罪として扱われる現行犯逮捕ではなく、確実に勾留出来る通常逮捕を選んだ。
 協力者がいる。
 いったい誰が?

 突然裕明が泣き出した。
 鬼の目にも涙、クソの目にも涙ってか。
 10センチほど開いたドアの隙間から見える都築は、何処かに向かう支度を整えていた。


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