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夏色
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夏色-1

「あ゛〜あづい!!」

からからとまわる扇風機を独り占めしながら奈津がぼやく。
網戸越しに見える空は雲一つなく、太陽だけが静かに激しく輝いていた。

「夏なんだから仕方ないでしょうが」

俺はベッドにうつぶせの状態で本を読みながら、奈津をあしらった。
奈津が整った眉をぴくりとつりあげ、『この小説バカめ』と毒づく。
(そういうお前はマンガバカだろ。)
と反論しそうになるが、奈津のペースに巻き込まれたくないので無視を決め込む。

しばらくぶつぶついってた奈津は、俺が相手にしない事にさらに気を悪くしたようだ。

「だいたいさぁ〜、何でこの部屋エアコンないのさ。干からびて死んじゃうよ!!」
布団をバシバシとたたきながら意味のない主張を続ける。
その様はまるでコドモだ。
(ホントにコイツ15才か?)
そう思いながら、奈津に最も効果的なセリフを口にする。

「今でも充分涼しいから必要ないの!文句あるなら自分の家に帰りなさい。」


「だってつまんないんだもん…」
奈津は頬をふくらませながら、扇風機の前に戻っていった。どうやら大人しく引き下がってくれたようだ。

奈津はクッションを用意し、本棚から数冊のマンガを抜き出して座ると、俺の方をにらみ『あっかんべーっ』と舌を出すと素知らぬ顔でマンガを読み始めた。


やっと静かに本が読める…
俺は再び本に目を戻し、読書を再開した。

心地良い沈黙の中、蝉の鳴き声だけが大きく響いていた。



どれくらい時間が経っただろう。
あまりにも奈津が静か過ぎるので横目で様子を伺う。



やっぱり奈津は寝ていた。
無造作に投げだしたすらりとした手足と、風に揺れる短い前髪が何だか愛おしく感じた。

俺は本を閉じて眼鏡を外すと、奈津を抱きかかえてベッドにつれていく。

また少し大きくなった気がする俺の小さな恋人。

そっとベッドに降ろすと、すやすや眠る恋人の幼いおでこに唇を一つ落とし、引出しの中の通帳を出し残高を確認した。

「…仕方ない、買うか…」

彼女の我が儘に振り回されるのも、たまにはイイかもしれない。

気持ちよさそうに眠る彼女を見つめながら、そうつぶやく。


その声は蝉の鳴き声と共に夏の空に吸い込まれていった。




END


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