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短編ー1−3−
【初恋 恋愛小説】

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何で-1

 なんで

 須藤貴之は四十才の誕生日が日曜で、かねてから登りたいと思っていた、たぬき山、に登ろうと麓から登山道をを歩き出した。

 波野安江は三十八才、何時も見ている、たぬき山に登ろうと麓から歩き出した。日曜日であるので登山客が大勢集まって登山道は人の列が絶えない。

 この時間帯は下山する人がいないので二列になって上を目指す。麓からしばらくは道は緩い登りなので全員殆どが隣の人と話をして登っていく。

「お一人ですか」

「はい、一人です」

「私も・・・・・・・○○市にお住まいですか?」

「そうです」

「私もです。今日は良い天気で良かったです、たぬき山に一回登ってみたかった」

「僕もです」

「何時も眺めてばかりで・・・・・・・・・・」

「僕もですよ、あまり近いのでいつでも登れる、と思いましてね」

「本当に、私も病院の窓から何時も眺めていて」

「病院にお勤めですか」

「ハイ、看護師です。夜勤がありまして、うまい具合に日曜日を挟んで三連休になりましたので」

「それは大変ですね。僕は××製薬で働いています」

「そうですか、関係がありますね、同じ医療関係で」

「でも、うちは大手の下請けで、病院とは直接御縁はありません」

 少し道は険しくなりだして話し声は次第になくなって息づく声だけが響いてくるようになった。


 中腹に、神社の拝殿がありその前が広場で、登山する人の半数はここで休む。

「やっぱり鳥居があるし、拝殿も」

「知らなかった、この山は神様の山なんですね。拝んできます」

「僕も行きます、多分ご神体はこの山の頂上にあるのでしょう。本殿も」


「私は波野安江と申します。一日御一緒させてください」

「須藤貴之です、よろしく」


「それでは行きましょうか、これから上り坂が急勾配ですから注意してくださいね」

「ハイ、解りました」


 列は一列になり安江は貴之の前を歩いた。脇は追い越す人のために開けておく。


「私は何時も病院の中を歩き回っていますから、脚には自信がありましたのに、やっぱり駄目ですね」

「平地と山道は、使う筋肉が違うんでしょうね」

「ご免なさい、私はゆっくりと登りますから、先に行ってください」

「いいです、急ぐことはありませんから」


 安江と貴之はこのあと二回ほど休んで頂上に着いた。

「ワー、素晴らしい眺め・・・・・・・」

「本当に、良い眺めですね。始めて山の裏側を見ました」

「私は、あそこに見える△△町の出身なんです」

「そうですか、僕は生まれて四十年、この山の向こう側に行ったことがないのです。綺麗な平野が広がっていますね」

「須藤さんは、四十才?ご家族は」

「独身です」

「結婚していらっしゃるとばかり思っていました」

「縁がないのですね」

「そうかも知れませんね」

「女性の方から見ると、縁がないと見えますか」

「ご免なさい、私ははっきりと物言うので」



「波野さん、起きて・・・・・乗り越しますよ」

「ご免なさい、私寝てしまって」

「夜勤明けでしたか?、よく寝てらした」

「気持ちよく眠らせていただきました」


 改札を出て駅前の大通りで、

「僕は右ですが、波野さんは?」

「私は左です、お世話になりました」

「こちらこそ、楽しかったです」


 二人は別れて五歩ほど歩いた、二人同時に、

「何で?」

 振り返ると目が合った。


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