衛星和誌　−Ｑカップ姉妹−

【SF 官能小説】

壱之叙　〜ミ・ドリ語り-1

　調教士殿は、われらが木星圏に留まられることになった。そして、ルリアさまと結ばれることになった。
　結婚式は、どのようなものになるのだろうか。普通の式だろうか。それとも調教士殿やルリアさまがわたしたちと培われた種々のノウハウを盛り込んだ、特別な式になるのだろうか。
　それは、わたしとしては、見たいようで見たくない、しかしやはり見てみたいものである。
（羞恥ウェディングドレス‥‥。花嫁、つまりルリアさまの女体盛りのご馳走‥‥）
　それらを想像するだけで‥‥。
（――う‥‥む、胸の奥が――）
　い、いや、おっぱいが、疼く‥‥。
（あ‥‥ぬ、濡れ‥‥ミ、ミルクが――‥‥）
　と、とにかく、いずれにせよ、素晴らしい式になることは間違いないだろう。しかし、わたしは最後に、これとはまったく別の件を、ここに記しておこうと思う。
　この星系に迫る、将来の異変のことを。

　あれは、スガーニーの彼女たちと別れる直前、最後に七人で交わった晩のことだった‥‥。
「土星艦隊？」
　ナディーカ姫のその言葉に、ルリアさまとわたし、そして調教士殿は、口をそろえて聞き返したのだった。
「まだ遠い宙域にあり、詳しいことはわからないのですが、発進したことは間違いないのです」
　あの夜、プレイが終わった胸元を整えながら、ナディーカ姫は伏し目がちに言うと、やはり裸の胸に上着を羽織ったところだったジェニファーさんを促したのだった。
　土星圏勢力（サタゥルネリア・グループ）の存在自体を知らなかった調教士殿、そして多少の知識はあるもののよくは知らないわたしとジャニスさまに、ジェニファーさんは説明を始めた。
　われらの木星の環よりも目立つ、おもな九環からなる非常に大きな環帯（リング）を持ち、はるかな軌道を周る惑星・土星（サターン）。その星を同じように母星と仰ぐ、土星系の存在を。
　交流は乏しく、情報はほとんどないが、わたしたちと同じく、豊かな胸の女たちが住まう‥‥。
　その土星圏から、巨大な宇宙戦艦と思われる二隻を含む大艦隊が、この木星系を目指して発進したということだった。到着には年単位を必要とするが、進路は間違いなく、また、近年観測されたうちでは最大規模の艦隊であること‥‥。
「“戦艦（バトルシップ）”といっても、わたしたち木星圏の艦（ふね）とは、根本的に概念が異なります。大きさの桁が違いすぎて‥‥なんというか、移民にでも使えそうな、超巨大艦なのです。先のトゥーロパ戦役で消失した『ベルタ』を覚えておいでですか？　あれよりも大きいのですよ。――信じられますか？　そんなものが惑星間航行をしてくるのですよ？」
　それは、木星系各政府の共同管理下にあった複数の港（ポート）を持つ、わたしも降りたことのある軌道ステーションの愛称（な）だった。不可侵であるはずだったが、第二次トゥーロパ戦役の後期、本星北部空域での艦隊戦に巻き込まれる形で戦の舞台となり墜落、崩壊。それによって厭戦気分を横溢させ、結果として停戦への機運を高めることになった‥‥。
　そして、ルリアさまが、このジェニファーさんと最後の対決をされた場のはずでもあった。
　両手を広げ目を大きく見開いて語るジェニファーさんの様子に、調教士殿も、わからないなりに話を飲み込もうとしているようだった。
「戦艦とは限らないだろう。多少は武装しているかもしれないが、それこそ目的は移民で、“艦隊（フリート）”というより“船団（コンボイ）”と呼ぶべきものかもしれない。――移民とも限らない。外交使節かもしれない」
　感慨に耽る様子もなく、ルリアさまが横から、腕を組み難しい表情でつぶやく。
　しかし、たとえそうだとしても、その行動には何らかの国家的な目的があるのは間違いないように思えた。木星系にとって、重大事であることには変わりないのだ。
　ジェニファーさんは続けた。近年、土星勢力がわが木星の軌道を越え、内側に広がる小惑星帯にまで「艦隊」を派遣し、勢力拡張を図っていること、（調教士殿の質問に答えて）わが木星圏は現在の段階ではどこも、土星圏勢力ほどの巨大宇宙船やその建造技術、また超長距離航行や長期航宙といった技術・ノウハウを有してはいないこと‥‥。
「このためだったのです、われら衛星間の連合を急いだのは‥‥。木星圏が束にならねば、すでに星系の統一を成し遂げている土星勢力（かれら）には、とうてい太刀打ちできません‥‥」
　ナディーカ姫はぎゅっと唇を引き結んだ。認めたくはないが、その憂いを帯びた小柄な姿は、木星圏全体を背負う責任感からなのか大きく見えた。他の人たちも同様のようだった。ルリアさまは少しうなだれ、暗い翳りの表情をお見せになられていた。聡明なルリアさまは、あるいは、最初からわかっていたのだろうか‥‥。ふと見ると、リリアさんも、同じように複雑な表情をしていた。顔立ちは異なるもの、その様子は、確かに姉妹と思わせる、似通った感じがあった‥‥。

　わが木星圏（ジュピテレリア）は星々の独立を保ったまま、軍事的な連携を深めることになった。
　先の条約は「ケーミンフ条約」と呼ばれるようになり、これにより、ケーミンフ条約機構軍と呼ばれる、事実上木星圏の同盟軍が誕生することになった。そしてその初代長官には、ルリアさまが就任した。同盟軍の兵器規格は、ルリアさまのご意志もあり、基本的にはスガーニー式のものへ統一化が図られることになった。
　その一方、ナディーカ姫は、スガーニーの一国主義、また重工業中心の軍事国家からの転換を志向するようになった。「高潔な乙女」号と対を成す巡洋艦「不屈の淑女（インドミタブレ・デャーマ）」号を、オイオ軍に譲渡してくれた。同艦はさっそく、わが軍の道を切り開く者（ウプ・ウアウト）として就役、一線配備された。また、過去の戦役でスガーニー軍に接収された「沈黙を愛する女（メル・セ=ゲル）」号という旧トゥーロパ防衛隊の時代物の砲艦が、トゥーロパ軍に返却された。貿易面では、わたしたちにも好評だったマグ・ソックスが輸出されるようになり、たちまち高い売れ行きを示した。