エピローグ-1
―― 数ヵ月後。
「ふわぁ……」
鍛冶場の台に置かれた見事な長剣に、ディーナはうっとりと目を輝かせる。
カミルの造ったこの剣が、誰の手に渡るのかは知らないが、こんなに素晴らしい剣を手に出来るなんて、とても幸運な人だと思った。
そして、その素晴らしい剣を、それが生まれた鍛冶場で見られる自分も、とてつもない幸せ者だ。
「さすが旦那さま……綺麗……」
いつまでも眺めていたくなる剣に見惚れていると、すいと伸びてきたカミルの手が剣を素早く鞘に収め、クルクルと布で包み隠してしまう。
「ああ〜っ! 旦那さまぁ! もうちょっとだけ……」
「ほら、もう良いだろう。さっさと外に出ろ」
「うぅ……あれ? 旦那さま?」
顔を逸らしている主の耳元が、かすかに赤みを帯びているのに気づいて、ディーナは首をかしげる。
―― もしかして、照れているんですか?
うっかり、そう続けそうになったが……
「……な ん だ ?」
地獄の底から響くような低い声とともに、凄まじい形相で睨まれ、ディーナはブンブンと首を振る。
「い、いえっ! なんでもありません!! あっ、ご飯とお風呂の用意はできていますからーっ!!」
鍛冶場を飛び出したディーナは、緩んでしまいそうな口元をムズムズと動かした。
自分達を至上の存在とする吸血鬼には、羞恥心というものが欠けていると、もっぱらの評判だ。
至上の存在だから、何をしても許される。
恥じることなんて何もないし、褒め称えられるのも当たり前……と。
どうやらその定義は、カミルには当てはまらないらしい。
(旦那さまは自信家だけど、ちゃんと自分に厳しいからなぁ……)
カミルの長い人生の詳細を、相変わらず詳しくは知らない。けれど、ここに至るまでにはきっと、辛いことも苦労もたくさんあったのだろう。
だからこそ自分の腕に自信を持ちつつも、苦労を称えられば嬉しくなり、照れたりするのかもしれない。
剣をしまいながら必死で顔を逸らしていた、大好きな旦那さまの姿を思い出しつつ、ディーナは浮き弾む足取りで台所に向かうのだった。
終