投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 9 ディーナの旦那さま 11 ディーナの旦那さまの最後へ

2 鉱石ビーズ三百個-6


***

 ―― これが、ディーナがカミルに雇われた経緯だ。

 しとしと降り続ける雨音を聞きながら、寝台の中でディーナはゴクリと喉を鳴らす。
 自分を抱きしめるカミルの背に手を回し、思い切り抱き返したい衝動に駆られた。
 いつからか気づいてしまったこの欲求は、日に日に強くなっていく。

(旦那さま……ひどいですよ……)

 ディーナは伸ばしかけた手を握り締め、唇を噛み締めて堪える。

(私は単純なんです! こんな風にされたら、また勘違いしちゃうじゃないですか!)

 一時の気まぐれな行動を、自分に向けられた優しさと勘違いし、絶望に叩き落されるのは、もうこりごりだ。

 そもそもディーナを雇ったのは、カミルにとってほんの気まぐれなのだ。
 ここに置き続けるのも、追い出さない程度には使えると思ったからだろう。

 しっかり抱きしめられて一緒に眠るといっても、愛を囁かれるわけでもない。
 まるで、愛玩具みたいな扱いだ。ほんの気まぐれで可愛がり、その気になればいつでも捨てられる……。

(それに、血だって……)

 去年も、先月も、カミルは血を欲する時期になると、ディーナから吸うのではなく、以前のように街の闇医者から血液を購入する。
 カミルが言うには、一度体外に取り出して保管された血液は、非常に不味い代わりに、発情を促されることもないらしい。
 吐きそうな顔で青ざめ、丸一日寝込んでいたから、相当に不味かったのだろう。
 そんなシロモノでも、ディーナを抱くよりはマシだというのか。
 
 知らずのうちにすっかり惹かれてしまった自分が、惨めでしかたない。涙がこみ上げてきそうになる。
 きまぐれに抱きしめる腕から、そっと逃れて寝台の端っこで寝ようとしたが、カミルが眠ったまま手探りしたかと思うと、たちまちまた捕まって引き戻された。

「ディーナ……」

 背後から囁かれた低い声に、ビクンと身が震える。

「っ……旦那さま……?」

「……貧乳……だと? どう見ても……まな板だろうが……」

 ―― ムニャムニャと呟かれた寝言に、思わず肘鉄を食らわせたくなった。

(もうっ! 旦那さまの鬼!!)

 不貞腐れて目を瞑ると、抱きしめる腕の力がほんの少し強くなった気がした。

「まぁ、それも……悪くない……が……」

 普段より格段に優しい声に、また涙がこみ上げそうになった。

(……だから、そういうのが、ひどいんですってば)



ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 9 ディーナの旦那さま 11 ディーナの旦那さまの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前