2 鉱石ビーズ三百個-6
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―― これが、ディーナがカミルに雇われた経緯だ。
しとしと降り続ける雨音を聞きながら、寝台の中でディーナはゴクリと喉を鳴らす。
自分を抱きしめるカミルの背に手を回し、思い切り抱き返したい衝動に駆られた。
いつからか気づいてしまったこの欲求は、日に日に強くなっていく。
(旦那さま……ひどいですよ……)
ディーナは伸ばしかけた手を握り締め、唇を噛み締めて堪える。
(私は単純なんです! こんな風にされたら、また勘違いしちゃうじゃないですか!)
一時の気まぐれな行動を、自分に向けられた優しさと勘違いし、絶望に叩き落されるのは、もうこりごりだ。
そもそもディーナを雇ったのは、カミルにとってほんの気まぐれなのだ。
ここに置き続けるのも、追い出さない程度には使えると思ったからだろう。
しっかり抱きしめられて一緒に眠るといっても、愛を囁かれるわけでもない。
まるで、愛玩具みたいな扱いだ。ほんの気まぐれで可愛がり、その気になればいつでも捨てられる……。
(それに、血だって……)
去年も、先月も、カミルは血を欲する時期になると、ディーナから吸うのではなく、以前のように街の闇医者から血液を購入する。
カミルが言うには、一度体外に取り出して保管された血液は、非常に不味い代わりに、発情を促されることもないらしい。
吐きそうな顔で青ざめ、丸一日寝込んでいたから、相当に不味かったのだろう。
そんなシロモノでも、ディーナを抱くよりはマシだというのか。
知らずのうちにすっかり惹かれてしまった自分が、惨めでしかたない。涙がこみ上げてきそうになる。
きまぐれに抱きしめる腕から、そっと逃れて寝台の端っこで寝ようとしたが、カミルが眠ったまま手探りしたかと思うと、たちまちまた捕まって引き戻された。
「ディーナ……」
背後から囁かれた低い声に、ビクンと身が震える。
「っ……旦那さま……?」
「……貧乳……だと? どう見ても……まな板だろうが……」
―― ムニャムニャと呟かれた寝言に、思わず肘鉄を食らわせたくなった。
(もうっ! 旦那さまの鬼!!)
不貞腐れて目を瞑ると、抱きしめる腕の力がほんの少し強くなった気がした。
「まぁ、それも……悪くない……が……」
普段より格段に優しい声に、また涙がこみ上げそうになった。
(……だから、そういうのが、ひどいんですってば)