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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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2 鉱石ビーズ三百個-1

 
 ―― 二年前、ディーナのいた農場は酷い経済状況に陥っていた。
 夫妻に散々コキ使われたあげく、脚を傷めたからとクビにされた小作男が、恨みから屋敷に放火したのだ。

 幸にも人死には出なかったが、母屋は全焼。家畜小屋にも燃え移り、飼われていた家畜は全て焼け死んだ。
 しかもその年は小麦に病気が蔓延し、その他の作物も不作続き。
 あげくに、夫人のお気に入りだった小間使いが、宝石類を全て盗んで恋人と駆け落ちしていった。

 夫妻は消失を免れた離れに住み、使用人の大半を辞めさせて倹約したが、様々な不幸が重なった農場を立て直すには、もっと金が必要だった。

 ディーナも夫妻と同じ家の中で寝起きするのを許されたものの、家事全般をやらされるためだったし、寝床といっても台所の硬い床だから、干草小屋のほうがまだマシだった。

 そしてある晩。
 ディーナは夫人が声高にわめく声に目が覚まし、そこに自分の名前が入っているのに驚いた。

『……その吸血鬼が造った鉱石ビーズは、高く売れると評判らしくてね。ディーナと引き換えに、鉱石ビーズを貰って売れば、そこそこの金ができるよ』

 どこからかカミルのことを聞きつけてきた夫人は、ディーナを彼に売ろうと考えついたのだ。
 テーブルに身を乗り出している妻にくらべ、夫はやや困惑しているようだった。

『しかしなぁ……わざわざ裏の医者から血を入手するような変わり者なんだろう? 生き血用の人間をやるといっても、欲しがるかどうか……』

『なに言ってるんだい、相手は吸血鬼だよ? 討伐されないために、体裁を取り繕っているのさ。ディーナは家出したことにするから、何をしても構わないといえば、たちまちあさましい本性を剥きだす』

 フフンと、夫人はたるんだ顎を突き出した。

『どうしても体裁にこだわるってなら、使用人としてあの子を雇うように薦めれば良いじゃないか。うちだって農場が立て直せたら、もっと有能な子を雇……ディーナ!?』

 そこまで言った時、夫妻はディーナが半開きになっていた扉の向こうにいるのをみつけた。

『盗み聞きなんていやしい子だね!』

 夫人は扉に突進すると、ディーナを逃がすまいと両肩を掴んだ。

『嫌とは言わせないよ! だいたい、火事の時にお前がもっと早く気づけば、全部焼ける前に消せたのに! あの小間使いだってどうせ、お前が手引きして逃がしたんだね! 悪いのは全部、お前なんだよ!!』

 全く、言いがかりにも甚だしい。
 放火犯は夫妻を恨んでの犯行だし、宝石を持ち逃げした小間使いだって、以前にも夫人の財布から金を盗んだ。
 けれど夫人がそれに気づくと、小間使いはディーナのせいにし、夫人は無実を訴えるディーナを鞭でぶったのに……。

『……奥様の言うとおりにします。その吸血鬼のところに連れて行ってください』

 凄まじい剣幕で詰め寄る夫人に、ディーナは抑揚のない声で返事をした。
 ここで逃げたところで、他に行くあてなど無い。
 それとも、身を粉にして働くからどうか許してと夫妻に頼み、これからも一生家畜のように扱われる?

 ……冗談じゃない。もう、何もかも、うんざりだ。

 吸血鬼が血を吸うのは、若く美しい乙女だけと信じられていた時期もあったが、実際はそうでもないらしい
 彼らは血を欲している時に、手ごろに襲える人間がいれば、性別も年齢も容姿の美醜もこだわらない。

 種族のほぼ全てが美しい容姿を持つ彼らは、美貌をとても高い価値観とするが、それはあくまでも同族間のみだ。

 人間が牛や豚を見て、その個体差に多少の美醜や毛並みの違いを感じたところで、特に接し方が変わらないようなものだろうか。
 彼らにとって人間はあくまでも、単なる食料なのだ。

 それならカミルというその吸血鬼は、痩せっぽちで顔色も悪いディーナだって、手軽に入る食料として受け取るだろう。

 吸血鬼たちは人間の血を吸う際、逃げられるのを防ぐために、壮絶な快楽をもたらす魔法をかけるそうだ。
 ゆえに襲われた人間たちは抵抗もできないまま、恍惚の中で犯されながら血を吸い取られる。

 どうせなら、そんな死に方をしたいと思った。

 こんな栄養不足でフラフラの身体から、満足するほど血を吸われたら死んでしまうかもしれないけれど、辛いばかりの人生の最後に、とびきり気持ちよくなって死ねるなら、それでもう良い。


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