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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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1 吸血鬼に仕える娘-4

カミルはさすがにくたびれたらしく、夕食を済ませるとすぐに寝室へいってしまった。
 ディーナは夕食の後片付けを終えると、入浴をして清潔な麻の寝間着に着替える。ゴクリと唾を呑み、寝室の扉をそろそろと開けた。

 ちなみに台所や風呂場などを除けば、この小さな家には鍛冶場と食堂兼居間、そしてこの寝室しか部屋はない。
 もう一つ寝台を余分に置くスペースなどないし、カミルは居間の隅っこで眠るというディーナの申し出を許さなかったから、同じ寝台を使って眠るよう命じられた。
 とはいえ、そこで何かされるわけでもなく、ただ一緒に眠るだけだ。

 ディーナは何をしても構わない使用人≠ニいう条件で彼の元に来た身で、性欲のはけ口にされても仕方ないはずなのだが……。
 カミルに抱かれたのは、たった一度だけ。
 ここに来た晩のみだ。

 寝台の枕元に置かれた小さな鉱石ビーズの明かりが、鈍色の髪を照らしている。
 途端にドキリと鼓動が跳ね、ディーナが戸口で息を調えていると、掛け布団の中から不機嫌そうな唸り声がした。

「寝るならさっさと来い」

「は、はい!」

 弾かれたようにディーナはパタパタと寝台に駆け寄る。
 枕もとの灯りは、カミルのように暗闇でよく見えないディーナの為につけてあったのだろう。
 カミルはディーナを抱き寄せて布団に引っ張り込むと、眩しそうに顔をしかめてすぐに灯りを消した。

(ふ、わ……やっぱり、ドキドキする……)

 一緒に寝るのも五日ぶりだ。
 眠っているカミルに、まるで大切な相手のようにしっかりと抱きかかえられ、ディーナは早鐘のように鳴る自分の胸を押さえた。
 最初のうちは、隣に横たわって眠るだけだったのに、カミルはいつからか、こうしてディーナを抱きしめて眠るようになった。
 密着している身体から、少し低い体温や、ゆるやかに動いている心音が伝わってくる。
 鎧戸の外からは、シトシトと雨音が聞こえ始めた。さっきから雲行きが怪しかったが、ついに降り始めたようだ。

 武具の製作でくたびれきったとはいえ、カミルがこうして夜に寝るのは、最近では特別なことではない。
 吸血鬼は日光に弱く、強い夏の陽射しにでも晒されれば、数時間で灰となり絶命してしまう。
 よって彼らは、昼の間は陽の当たらぬ暗い場所で眠って過ごし、夜に起きて活動するのが普通だ。

 実際、カミルも以前はそうしていたから、ディーナはここに来た当初、彼に合わせて自分も昼に眠り、夜に起きて食事を作るなどしていた。
 夜の山は危険といっても、日光が吸血鬼の致命傷になるのとは違い、人間は夜闇に身を焼かれたりなどしない。

 しかしある晩。
 家の近くにある山菜を取りつくしてしまい、怖かったが暗い山道のもう少し奥へ摘みに出かけたら、カミルが血相を変えて探しに来て、危険だとしこたまお説教をされた。

 彼が人間のように夜に眠り、昼間は鎧戸を閉めた鍛冶場で過ごすようになったのは、それ以来だ。
 用がある時は夜中に出かけていくこともあるが、大抵はディーナと一緒に眠る。

(旦那さま……)

 規則正しい寝息を立てるカミルの腕の中で、ディーナはぎゅっと目を瞑る。
 こうして抱きしめられたりすると、心臓をしめつけられるように苦しくて……どうしても二年前の事が頭に浮かんでしまう。



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