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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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1 吸血鬼に仕える娘-2

 カミルもディーナに続いて鍛冶場を出ると、厚い扉をバタンと閉めた。

「お疲れ様でした、旦那さま。お風呂の用意ができています。ご飯もすぐに食べられますから」

 今回は五日程で出来ると言われていたから、今朝から腕によりをかけてスープを仕込んだし、湯船には香りの良い薬草も入れて保温している。

 カミルは「ああ」と、ぶっきらぼうに頷くと、風呂場へ行った。
 主が汗を流している間に、ディーナは手早く食卓を整える。並べる食事は二人分。
 初めてここで食事を作った時、一緒に食べるよう言われて驚いたものだ。

 ディーナは幼くして両親を亡くした後、農場を経営する遠縁の夫妻に引き取られたが、形は養女でも使用人以下の扱いだった。

 両親の残した借金を肩代わりしてやったのだからと、夫妻は朝から晩までディーナを農場でこき使った。寝る場所は干草小屋で、食事も余ものを少し分けてもらうだけ。あんまり腹が減ると干草を齧ってしのいだ。

 そんな境遇に慣れていたから、旦那さまと食卓を共にするなんて……と戸惑った。
 しかし、カミルにジロリと睨まれ『つべこべ煩いことを抜かさないで食え』と命じられたので、それからこうして食卓を共にしている。

 しかもカミルは、ディーナが痩せすぎだと眉間に皴を寄せて言いながら、皿に食べ物をいっぱい載せて押し付けるから、ここに来た当初のようにガリガリの身体ではなくなった。

(うーん……でも、ここはまだあんまり……)

 料理を並べ終わったディーナはエプロンを外し、自分の胸をブラウスの上から両手で掴む。
 元々の体格なのか、それとも長年の栄養不足がたたっての結果か。申し訳程度に膨らんでいるだけの乳房は、ディーナの小さな手でさえ簡単に覆ってしまえるほどだ。
 下着に胸当てをつける必要すらなく、お世辞にも色気たっぷりとは言いがたい。

 ため息をつき、ちょっとは大きくならないかとムニムニ胸を揉んでいると……
「何をやっているんだ?」と、唐突に背後から声をかけられた。

「ぎゃっ!?」

 ディーナは悲鳴をあげ、文字通りに飛び上がって振り向く。
 鈍色の髪をしっとり濡れらしたカミルが、いつの間にかすぐ後にいてディーナを見下ろしていた。

「だだだ旦那さま! 今の、見て……」

 カミルは呆れ顔で肩をすくめると、真っ赤になったディーナの頭へポンと手を置く。

「まない板胸の件は、もう諦めろ」

「まな板!? まな板って、そんなぁ! せめて貧乳といって下さい!」

 そんなやりとりをしながら、二人は楽しく食事をする。……少なくともディーナにとってはとても楽しい。

 カミルの無愛想さは筋金入りで、食事の時も大抵はしかめ面のままだ。美味しいものを味わっているようには到底見えない。
 しかし文句をつけることもなく、時折ぼそっと小声で「美味い」と呟くのは、褒めているようだ。

 空になったスープ皿を素っ気無く突き出され、ディーナは頬が緩むのを懸命に堪えながら、特製スープのおかわりをよそう。

(旦那さま、やっぱりこのスープ気に入ってくれてるんだ! いつもお代わりするし!)

 鍛冶場に篭っている間、カミルはパンと干し肉を持ちこんで食事にも出てこなかった。
 その間、一人きりでも食事をきちんとするように言われていたから、自分のためだけに食材を使うのにも、罪悪感を覚えなくて済んだ。

 しかし、農場にいた頃はいつもお腹いっぱい食べられさえしたら、それだけでどんなに幸せだろうと夢見ていたのに……一人ぼっちで取る食事は妙に味気なかった。

 カミルは鍛冶場の中でちゃんと食べているのかと、そればかりが気に掛かる。
 あの無愛想なしかめ面が、恋しくてたまらなかった。

 自分がカミルにこんな感情を抱くようになるなんて、まったく信じられないと、ディーナは内心で困惑する。



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