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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-1

  ◆  ◆  ◆

 四月、入学式後の最初のホームルーム。
 シックなピンクベージュのスーツに身を包んだ女性が教壇に立っていた。年の頃は二十代半ばか後半。幾分硬い表情から緊張が見て取れた。背後の黒板に綺麗な字で自分の名前を書き上げると、振り向いて花のような笑顔を見せる。黒目がちな目が印象的だった。
「皆さん初めまして、今日からこの一年C組の担任になる、佐伯 千鶴(さえき ちづる)です。今までずっと副担で、クラスを受け持つのはこれが初めてなの。だから未熟な所も沢山あるけど、みんなと一緒に先生も成長していけたらいいなって思っています。一年間だけど、よろしくお願いしますね!」
 通りの良いソプラノが明るく響き、女性がぴょこんと頭を下げた。そうすると、ゆるくウェーブのかけられた茶色い髪が、後頭部でダンゴのように丸く纏められているのが分かる。
 初々しさの溢れる可愛い新米教師に、クラスの男子生徒がむやみに盛り上がり、その様子に女子生徒が苦笑した。

 ──小動物のようだ。
 それが、夜刀神 孝顕(やとがみ たかあき)が彼女を見た最初の印象だった。

 初めのうちこそ、何をするにも危なっかしい雰囲気がぬぐえない佐伯だったが、新米ゆえの勢いと前向きさでどうにか乗り切り、比較的短期間でクラスに馴染んでいった。
 話し好きで人を笑わせるのが好きな性質(たち)の彼女は授業中、気分転換にと話しだしたネタで盛り上がり、気が付けば授業終了。なんていう事も時々あって 「教頭からよく注意されるんだよねー」 と失敗も笑って披露していた。
 そして、
「私の授業中は、面白い話をこっちに振らないこと! 授業が遅れちゃう!」
 と、授業の度にネタだか前フリなんだかよく分からない注意をした。
 彼女のことを、「千鶴ちゃん」「佐伯タン」 とクラスの皆が呼ぶようになり、気が付けば他の生徒からもそう呼ばれていた。すれ違う生徒達にあだ名で呼ばれる度に、「佐伯、先、生!」 と、眉をしかめて表情を作り、苦笑交じりに訂正するのが恒例行事になっていた。

 その人の周りは、常に明るい光で満ちているようだ。

 昼休み、教室に戻ろうとしていた孝顕は廊下の先に見た光景にそっと溜息をついた。佐伯の事を想う時、少年の口からは自然と溜息が漏れる。いつも笑顔を絶やさない女教師に心密かに憧れていたのだ。それは他の男子生徒のような邪な物とは違う、もっと純粋で単純な感情だ。
 クラスメイト達とも慣れ、今ではそれなりに仲良くやっている少年であったが、その反面深くつき合える友人は、まもなく六月になろうという現在も未だいない。よくつるんでいるクラスメイトも確かにいるが、心の中では彼等とも微妙に距離を置いている。
 そんな、いつまでも中途半端な少年に初めて気がついたのが佐伯だった──。


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