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恋のMEMORY
【少年/少女 恋愛小説】

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勇気と劣等感-3

濡れた制服をスポーツタオルで拭く彼、バックも相当濡れている。

これは神様からのチャンスだ!…と喜ぶと同時に早く何処か行って!と思ってしまう自分がいた。

「こりゃー止みそうにないなぁー。」
「……。」

独り言を呟く彼、相変わらず私には気付いてない。

いや、気付いていない、じゃない!彼に気付かせるんだっ!この分だとバスが来るまで
二人っきりだし。

でも、やっぱ緊張するからこのまま立ち去ろうか?向こうも気付いてないし。

……いやいや!ダメだ、こんなの巴ちゃんが聞いたら何て言われるか。

話すんだ、絶対に、……でもっ、でもっ…。

「君もバス?」
「!?」

不意に声を掛けられる、一瞬また独り言かと思うが、これって。

「あ、う……。」

返答も出来ず、その間に彼の視線は私から放れ。

あぁーんもう!私のバカバカバカァ。折角、折角、彼の方から話しかけてくれたのに。

もう嫌、こんな性格。

「タオル冷たっ!思ったより濡れてんな。」

濡れた顔を拭こうとするもタオルが使い物にならなく。

「ん?」

私は震える手で自分の使ってないハンカチを彼に差し出す。

「え、何?……。」
「う、……あ、あ、よよ、良かったら、つつ、つ、使って下さい。」

頭上に?マークを浮かべ動じない彼、あぁ倒れそう。

「ありがとう。」

不審に思うでもなく、かと言って大いに感謝するでもなく、ハンカチを受け取る彼。

人が来るでも通るでもないバス停。何とか話を…。

「あっ、そういやクッキーありがとう!」
「どどど、ドーナツいてまして。」

何言ってんだ私、幸いそれに気に障る様子はない、ただ私に関心が無いだけだろうけど。
近くに鏡はないがきっと私の顔は真っ赤に染まっているだろう。

この前のお礼を言ってくれた彼。

何か波に乗って来た気がした、言おう…あの日出会った事を。

やれる、今の私はいける…。

「あ、あ、あ、あのー!」
「うん?」

私は一呼吸する。

「あの日はありがとう。」
「え?」
「私がテストの補習で一人筆を走らせている時、貴方は来た。」
「……。」

口を開け固まる、何の話だが判らないのか。でも私は続ける。

「判らない問題に苦しんでいる私を助けてくれて、ううん!それ以上に貴方は私に勇気をくれた、「くよくよすんなよっ!」って。」
「……。」
「あれから私、何だか周りの世界が広く感じて、ウジウジしてた自分がとても恥ずかしく感じて…、だから、だから。」

           ありがとうっ、私に勇気をくれて!

自分でも不思議なくらい口から言葉が出る。私は言いたい、いや彼に伝えたい事を言えた
……彼はそれでも口を開け固まる。

「………。」

何も言い返さない、空気が重く感じる。伝えたは良いがその後の事は全く考えていない、
行き成りそんな事を聞かされる彼の事何て。この人何言ってんだって思っているのかな…
そりゃー彼からしたら単なる親切、いちいち記憶に残る事じゃないだろうし。

……何か、嫌だ。自分から言っておいて。穴があったら入りたい。すると彼はずっと固まった口を動かす。

「…良かったな、友達出来て。」
「え?」
「この前に比べて大分表情が柔らかいしな。」
「佐伯、君……。」

どうやら彼も私の事は気付いていたようだ、と言ってもそんな重くではないが。

「蓮から聞いたよ、東京から引っ越して来たんだって?そりゃー緊張するよな。」
「う、うん……。」
「まっ!これからも色々な行事とかあるだろうけど、困った事とかあったら俺でも蓮でも
巴でも遠慮なく言ってくれよなっ!」
「……。」

胸がキュンとしてくる、この優しい言動、太陽のような笑顔。間違いない、あの時と同じだ…。

「何か冷えるな、大丈夫か?寒くない?」
「うん、ちょっと…。」

両肩を手で抑える、確かに雨で寒いが今はそんなの気にする余裕はなかった、だから。

「は…くしゅんっ!!」

矢駄、私ったら…。すると横にブレザー服を手に腕を伸ばす彼。

「ん。」
「え?」
「ほら、着ろよ。」
「でも…。」
「バス降りるまででいいからさ…。」

もはや何を考えるでもなく、彼の優しさに触れる。

それから私達をずっと見ていたかのように丁度向こうからバスが光を放ち、やって来た。


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