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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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20章-1



 その日の夜中。

 日付が変わるころ、鏡哉が帰宅した音で美冬は目を覚ました。

 自分の部屋のベッドの中で美冬は目を閉じたまま硬直する。

 静かな音がしてドアが開かれ、絨毯の上をこちらによって来る控えめな足音が聞こえる。

「おやすみ、美冬」

 そう囁く声が近くで聞こえたかと思うと、額に温かい何かが触れる。

 鏡哉の足音は遠ざかり、パタンとドアが閉められた音がした。

「………」

 美冬は額に手を当てると、静かに寝返りを打った。

(ごめんなさい、鏡哉さん)

 無意識に止めていた息を吐き出す。

 鏡哉に顔を合わせ、普通にふるまえる自信がなかった。




 鏡哉の従妹に美冬が似ていたから、自分を好きになったかもしれないこと。

 鏡哉がアメリカに異動になること。

 自分の大学進学のこと。




 考えなければいけないことは山ほどあるのに、うまく考えが纏まらない。

 鏡哉が虐待を受けていたことや、恋人と死に別れていたことも衝撃的だった。

 しかし今となれば、納得のいくこともある。  

 鏡哉の恋人になってから知ったことなのだが、鏡哉はたまに悪夢にうなされていた。

 多分それらの過去が原因の一因であろう。

 鏡哉の苦しみは自分が傍にいることによって、軽くなるのだろうかと思う。

(鏡哉さんの気持ちは、鏡哉さんにしかわからないけれど――)

 少なくとも自分と一緒にいるときの鏡哉は、とても幸せそうに笑ってくれていると思う。

 ただ、それが相手が美冬だからなのか、元恋人に似た自分だからなのかは分からないけれど。

(考えてもしょうがない。ただ、私は鏡哉さんを愛していることだけは自信を持って言えるから)

 そして鏡哉は自分のアメリカ転勤を知ったらどうするのだろう。

 きっと転勤を断るという選択肢はない。

 断るということは、あの会社にいられないということを意味するだろう。

 美冬は鏡哉がどれほど今の仕事にやりがいを感じているか、分かっているつもりだ。

 いつも口では「会社より美冬が大事」と言いながらも、たまに仕事の面白話をしてくれる彼の表情はとても生き生きとしているのだ。

(じゃあ、私は? 私は鏡哉さんのように生き生きと打ち込んでいるものはある?)

 それには自信がなかった。

 高校を辞めると決めた今、確かに大検へ向けて必死に勉強をしているつもりだが、ふと我に返ることがある。

 自分は一体どうしたいのだろうかと。  

 鷹哉の言ったとおりだ。

 本当に鏡哉は自分を大学に行かせる気があるのだろうか。

 大検を受けて大学に行けと言ったのは鏡哉だ。

 その言葉に嘘はないと信じたい。

(でも……何の保証もない――)

『鏡哉は今のことを知られたら、社会的信用をいっぺんに失う』

 これも鷹哉の言う通りだった。

 付き合う前ならまだしも恋人同士となってしまった今、鏡哉の置かれている立場はとても危うい。

 軟禁については美冬はなにも言うつもりはない。

 たしかに最初は閉じ込められたが、両思いになってからはいつでも出て行こうと思えば出来たのだ。

 ただ、自分がそうしなかっただけ。

 鏡哉と離ればなれになるかもしれない。

 もしかしたら一生、鏡哉と会うことはないかもしれない。

 それほど二人の住む世界は違いすぎた。

「そんなの、やだよ……」

 美冬の唇から呟きが漏れる。

(私の傍にずっと居て! 私以外を見ないで!)

 そう言えればどんなにいいだろう。

 そして、そんなことを言える訳もないことも分かっている。

 くしゃり。

 美冬の顔が歪む。

 もう体がカラカラで、涙は一滴も出ない。

 こんな時こそ、泣いて喚いてしまいたいのに。







「………はあ」

 夜の間中、同じことを何度も何度も繰り返して考え抜いた。

 何度考えても、同じ答えしか導けなかった。

 美冬は枕に突っ伏していた頭を起こすと、ベッドから降りた。 

 閉じていたカーテンを音を立てて開ける。

 空は白み始めていた。

(鏡哉さん、私は貴方のことを愛している。

 それだけは自信を持って言える。だから――)

「……よし」

 そう気合を入れる声を上げると、壁の傍のデスクに近づく。

 美冬は引き出しからレターセットを取出し、椅子に座った。 





(さあ美冬、一世一代の嘘をつこう。

 鏡哉と自分、それぞれの未来のために――)









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