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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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10章-2



 チュンチュンという鳥の囀りで目が覚めた。

 美冬は巻いたままの腕時計で時間を確認し、だるそうに体を起こす。

 畳の上とはいえ、寝具がないと直に寝るのはやはり体が痛い。

 今日は金曜日だが、学校へ行く気力はなかった。

 学校に休む旨連絡を入れないといけないが、携帯電話はもちろん固定電話もここにはない。

 起き上がって伸びをすると、キッチンの流しで顔を洗った。

 タオルで滴を拭いながら、部屋の中を見渡す。

 到着した昨日は夜だったのでよくわからなかったが、6Kの和室のその部屋は眩しいほど朝日が入ってくるらしい。

(カーテン買わないと、後、お布団と、調理道具と……)

 頭の中で買い揃えるものリストを作る。

 鏡哉の部屋を出て、もともと持っていたマンションの部屋へ帰るという選択肢はなかった。

 そこは鏡哉の助言で、分譲賃貸として一年前から貸し出していたのだ。

 その賃料収入のおかげと、高柳が保証人になってくれたおかげで、美冬は今このアパートにいることができている。

 といってもマンションの賃料からアパートの賃料を差し引くと、残るのは数万円。

 大学進学のためにはまた以前のように、夕方から明け方までバイトを入れる必要があるだろう。

 鏡哉と離れることを決心して高柳に電話を掛けた時、高柳はずっと最後まで鏡哉から離れることを反対していた。

 しかし美冬には恋焦がれている鏡哉が、自分に気を使って部屋に戻ってこない状態など耐えられるはずもなく、独り立ちすることを決意したのだ。

 高柳は「うちで暮らす?」と気を使ってくれたけれども、そんな甘えが許されるはずもない。

「……鏡哉さん、手紙、見てくれたかな……」

 一方的に雇用関係を終わらせるひどい内容だという自覚はあった。

 彼はきっと憤慨しているに違いない。

 いや、違う。

(きっと、厄介払いができて、ほっとしているよ、ね……)

 最初から間違っていたのだ。

 鏡哉から住み込みの家政婦になれと言われたときに、断っておけばよかったのだ。

 そうすれば、こんな気持ちにはならなかった。

(こんなに、好きにはならなかった――)

「………」

 気が付くと俯いて唇を噛みしめてしまっていた。

 美冬は顔をあげてぷるぷると首を振る。

(もう、決めたんだ。鏡哉さんのことは諦めるって。思い出にするって。だからあの時、最後に抱いてもらったのでしょう――?)

 ぼうとするといつも思い出してしまう。

 あの時の鏡哉の温かく汗ばんだ肌、突き上げてくる熱い熱、苦しそうな吐息、を。

 美冬ははっと我に返り、もう一度首を振って気を入れなおす。

「よし、とりあえずはバイト情報誌!」

 美冬はそう呟くと、お財布と部屋の鍵を握ってアパートを後にした。  






 土日を使ってバイトの面接を受けまくり、美冬は夕方〜夜にかけてのバイトは決まった。

 着物を着てしゃぶしゃぶを作るチェーン店だったが、1,000円と時給がよかったのだ。

 夜〜明け方にかけてのバイトは、女子ということと美冬の中学生のような見た目もあってなかなか決まらなかった。

(前バイトしていたレンタルビデオ屋さんに、頼み込んでみようかな……)

 月曜日、学校へ登校しながら美冬は手帳のアドレス帳をくる。

 学校へ着くと担任が「夏風邪だったの? もう大丈夫?」とえらく心配してくれ、少し良心の呵責(かしゃく)にさいなまれた。

 一週間ぶりの授業でついていくのがやっとだった美冬は、休み時間と終業時間後、クラスメイトからノートを借りてコピー室でコピーを取らしてもらった。

 人のいいクラスメイトはずいぶん待たせたにもかかわらず、ジュース一本で機嫌よく帰って行った。

 バイトが始まるのは今週末からだ、その間で一週間分を復習しなければならない。

 美冬はうーんと伸びをするとアパートへ帰るべく、夏とはいえ少し日の陰ってきた外へと足を踏み出した。

 帰宅部の生徒たちはとっくに帰ってしまったのだろう、人影はまばらだった。

 グラウンドでは陸上部やサッカー部が真夏の日差しの中、それぞれの練習にいそしんでいる。

(もし、両親が生きていたら、私、なんかクラブとか入っていたのかな?)

 そんな考えてもしょうがないことを考えながら、校門へと向かう。

 しかしそんな考えはすぐに霧散した。

 校門にはまるで通せんぼをするように、一台の黒いリムジンが止められていた。

 その傍には遠目にもわかる、長身の高柳が立っている。

(高柳さん一人? でももし、車の中に鏡哉さんがいたら――)



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