投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

そして16年目の恋模様(クラス1-AB)
【女性向け 官能小説】

そして16年目の恋模様(クラス1-AB)の最初へ そして16年目の恋模様(クラス1-AB) 30 そして16年目の恋模様(クラス1-AB) 32 そして16年目の恋模様(クラス1-AB)の最後へ

ハードル-4

結婚式場は街中のホテルで簡単に決まった。

引出物や料理、花嫁衣装などは千尋の意見を尊重しながら、オレの母親が張り切って仕切った。

応援すると言っていた白石先生も、立場もわきまえずに時間を見つけて付き添ってくれた。多分、興味が半分、自分の時のシミュレーションが半分か。本当に魅力的な先生だ。

千尋が式に呼んでいた中学からの同級生の3人も同行してくることがあった。ワーワーキャーキャーとドレスを決める時には、オレの入る余地など全く無かった。

案内ハガキなどは、オレの父親が率先して段取りをしたので、オレと千尋が呼ぶ来賓のリストを渡して、その他の人選は全部任せた。ただし不確定な要素が有ったので、それはその都度相談した。

まだ高いハードルが残っていた。知子の三回忌にも顔を見せなかった知子の両親だ。しかし身内の少ない千尋のために、是非式には出席して貰いたかった。

台風の夜、よくも千尋を引き取らそうと思ったもんだ。やはりあの時は相当パニクってたんだろうな。今改めて考えてみて、16年の確執の大きさに身震いさえしてしまうほどだ。

千尋を連れて、アポ無しで訪問した。【宮下】の表札の横のインターホンを押して、佐々木と名乗った。

名前以外は、詳しく言わなかったが、昨今のややこしい社会情勢で、それだけで出てくるかは賭けだった。しかし、千尋の祖母の知津子は怪訝そうにしながらも顔を出してくれた。

知子の葬儀の時以来見ていなかったが、応対に出てきた知津子は一気に老けた印象を受けた。

「どちらの佐々木さんですか?」

「知子さんの同級生だった佐々木と申します。今日はお願いが有って参りました」

知子の名前を聞いた知津子は目を見開いた。そして、オレの後ろに顔を伏せる千尋の顔を見た瞬間、息を飲んで口を被った。

「ま、まさか、千尋ちゃん?」

知津子が自分の孫の名前を声を震わせて呼んだ。

まさかいきなり自分の名前を呼ばれるとは思って無かった千尋は、驚いて顔を上げた。

「お、おばあちゃん…」

千尋にとって初めて見る顔だった。葬儀の時に会っていたが、終始俯いて泣いていた千尋は、自分の祖母の顔を見ていなかったのだ。

知子に似た顔立ち、知子が歳をとったら、こんな感じになるだろうと思える雰囲気に、千尋は目を見開いた。

「あ、あなた、来て下さい。千尋が…千尋ちゃんが来てくれましたよ」

知津子が家の中に向かって声を掛けた。

「さ、さあ、入って」

知津子がオレ達を促した時に、玄関先から男の声が聞こえた。

「家に入れる必要は無い」

開いたドアの外からオレは声の主を見た。葬式の時よりかなり老けた千尋の祖父武弘が立っていた。

オレは会釈をした。

「知子さんの同級生だった佐々木と申します」

「その佐々木さんが一体何の用件だ?」

苦虫を潰したような顔だった。

一筋縄でいきそうにないな。一瞬心が折れそうになったが、千尋のことを思うと力が湧いてきた。

「突然の訪問を許して下さい。今日はお願いが有って参りました。ここでは何ですから、中に入れていただけませんでしょうか」

相手の目をしっかりと見ながら言った。

「話はここで聞く。要件は何だ?」

「あなたっ!」

知津子の非難めいた声を上げた。

「お前は黙っておけ!」

武弘の怒鳴り声に、千尋はビクッと体を震わせた。今にも泣きそうな顔だった。可哀想に。

「わかりました。ここでお伝えします」

オレは気持ちを落ち着けると、自分の立場、慎吾の入院、そして千尋と結婚をすることを報告した。

「それで結婚式には是非、ご出席していただけませんでしょうか」

オレが頭を下げると、千尋も慌ててぺこんと頭を下げた。

それまで黙っていた武弘が、オレの下げた頭に向かって吐き捨てるように言った。

「結婚だと?この子は高校生だろうが」


そして16年目の恋模様(クラス1-AB)の最初へ そして16年目の恋模様(クラス1-AB) 30 そして16年目の恋模様(クラス1-AB) 32 そして16年目の恋模様(クラス1-AB)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前