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そして16年目の恋模様(クラス1-AB)
【女性向け 官能小説】

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動揺の果てに迷走する想い-3

冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ…

無理やり気持ちを落ちつけようとしたが、逸る気持ちは中々治まらない。

どうする?どうする?どうする?

焦る頭で考えて、交友関係を調べることが浮かんだ。しかし、千尋の交友関係は知らないし、担任の連絡先も知らない。結局それを知るであろう慎吾の元に向かうことにした。慌てたオレには、学校に電話をして担任の連絡先を聞く頭はこの時は無かった。




移動中も目を凝らして千尋の姿を探した。人影を見ると、千尋でないかを確かめた。

病院に着くと、この日2度目の訪問に不満顔を向ける警備に拝み倒して中に入り、とがめる声を背中に聞きながら掛け足で病室に向かった。

慎吾は起きていた。

「千尋が居なくなったか?」

びしょ濡れの状態のオレを見て、慎吾は何が有ったのかを直ぐに悟ったようだ。

「そうだ。ここに来てないか?」

オレは期待を込めて聞いたが、心配顔のその返事はそっけなかった。

「来てない」

「なら、千尋の交友関係を教えてくれ。それと担任の連絡先だ」

「待ってろ、千尋の友達の連絡先までは知らないが、担任の番号はわかる」

慎吾は担任の番号を調べるため、携帯電話の電源を入れた。すると画面に2件の【留守番電話あり】の表示が出た。

1件はオレだ。そしてもう1件は…

オレは慎吾から携帯電話を奪い取ると、オレとは別のメッセージを再生させた。

その内容を聞いたオレは、携帯電話を慎吾に投げ返し、そのまま病室を飛び出した。怒鳴る警備を振り切り、車に飛び込んだ。

目的地に少しでも早く着こうとして、幾つかの赤信号を無視した。

運転中、泣き声で湿った千尋のメッセージの声が、耳の奥で幾度も繰り返された。

(浩太にいに出ていけと言われちゃった。お母さんのところで、どうするか考えます)

目的の場所が在るガラ空きの駐車場に車を止めると、3年前から月に1度は訪れるその場所に向かって、傘も差さずに駆けだした。

その場所に1人の女が立っていた。

千尋じゃない!

吃驚したオレは思わず足を止めてしまった。そんなオレに対して、女はにっこりと微笑むと、おいでおいでと手招きを始めた。

その微笑みを見ている内に、何故だか焦る気持ちがどんどんと小さくなり、ここのところ味わったことの無い安らぎを覚え始めた。オレはその手招きに応じて、フラフラと足を進ませた。

しばらく足を進めると、女の足元にもう1人うずくまっていることに気付いた。

「千尋!」

それが千尋だと確信したオレは、残りの距離を駆けだした。

「千尋!しっかりしろ!」

うずくまるように横たわる千尋を抱きかかえると、半開きの口元に耳を寄せて、千尋の息を確認した。

直ぐに『すーすー』と規則的に息を続ける音が耳に届いた。

「ふう…」

安堵で息を吐いたオレは、事情を聞こうと思い、立っている女を見上げた。しかし、不思議なことに、そこに居るはずの女の姿はどこにも見当たらなかった。その代わりにオレの目に映った物があった。

「ありがとう、知子…」

オレは目の前の知子の墓に向かって、自然と声が出た。妄想でもいい、とにかくオレは千尋の無事を誰かに感謝したかったのだ。

その声を聞いて、腕の中の千尋がピクリと反応した。オレは腕の中の千尋の顔に目を落とした。

愛おしい寝顔。急激に胸が一杯になった。

その愛して止まない少女の瞼がピクリと動いた。オレは年甲斐もなくどきどきした。オレに見つめられる中で、千尋の瞼はゆっくりと開かれていった。

焦点が定まらずに視線が泳いだ。その視線がオレの姿を取らえると、その愛らしい目はパチパチとせわしく瞬きを繰り返した。

「浩太にい!」

千尋は声を上げてオレにしがみついた。さっきとは違い、今度のオレは千尋を振り払う事無く、しっかりと受け止めた。
 


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