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英雄
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英雄-2

『どの馬も最高の状態ですが、サクラノキセキ、一際目立っております』
 病院の一室で、ラジオのスピーカーから競馬の実況が様子を告げている。
『スピード出世と言いましょうか。三歳にしてこのレース出馬の権利を勝ち取ったサクラノキセキが、ゆっくりとゲートに入りました』
 実況の後ろからファンファーレが鳴り響いて来た。
『さぁゲートが開きました。全頭まずまずのスタート。エリザベス女王杯を制すのは、いったいどの馬なんでしょうか。先頭はピンクのゼッケン………』
「サクラは?サクラはどこ?」
「しー。静かに」
 サクラノキセキの飼育係補佐の人が、桜をなだめる。
『……そしてその後ろ、黒の9番サクラノキセキ、14番……………と続いてます。馬群は綺麗に縦一列といった感じ』
「サクラは後方だな」
「勝つ?サクラ勝つ?」
「あぁ…」
 しかし、その保証はない。何が起こるか分からないのが競馬だ。
 事実、サクラノキセキは5番人気だが倍率がかなり高い。それだけ有力馬は人気があり、実績もあるのだ。
『第三コーナーを回り、第四コーナーに差し掛かります。先頭はピンクから黄色の1番───になっております。その後ろ………、いました、一番人気エンジェルハート。5番手といったところでしょうか。さらにその後ろ………』
 そして馬群は直線に入った。競馬場の歓声が一際大きくなる。
『さぁエンジェルハートが先頭に立った!続いて………………このまエンジェルハートが逃げき…いや、後方から黒い刺客が、矢の如く伸びて来た!若き9番サクラノキセキ!目を見張る勢いでぐんぐん伸びる!このままエンジェルハートを差せるのか!そして今フィニッシュ!ほぼ並んでいましたが、、写真判定です』
「サクラは?」
「わからない。けど、もしかしたら…」
 ラジオから、競馬場内が再び騒がしくなった様子が伝わって来る。
『出ました!一着はなんと、9番サクラノキセキ!二着、3番エンジェルハート!若き女王、ここに誕生です!』
「やった!サクラが勝ったよ!」
「まさか…サクラが…サクラが奇跡を起こした…やったー!」
 飼育係補佐の人は、桜と一緒に歓喜を上げた。
「病室では静かにお願いします」
「あ、すみません…」
 看護婦が二人に注意をうながした。



「すまないな、拓」
「いえ、いいんです。早く桜に元気になってほしいですから」
「ホントにすまない」
 桜の父親は何度も拓に頭を下げ、拓から金を受け取った。
 賞金は大部分を桜の治療費にあて、残りはサクラノキセキのために使われた。
 その甲斐あって、桜は順調に回復し、退院もした。
 しかし目だけは、未だに片方しか見えなかった。

 そしてサクラノキセキは、デビューから全てのレースを制し、無敗の女王に君臨していた。
 その差しの鮮やかさから「漆黒のスナイパー」とうたわれた。



 一方、桜は大きな山場を迎えていた。
「どうする?桜…」
「私…やる」
「そうか。じゃあ手配しておくよ」
 桜の父親は、アメリカの有名な眼科医に電話をかけた。
 桜は目の手術を受ける事を決断したのだ。
 しかし、それにはやはり費用がかかるのだった。


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