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桜の木の下の約束
【悲恋 恋愛小説】

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桜の木の下の約束-1

「東条貴也さん、よくお聞き下さい。申し上げにくいのですが・・・貴方の余命は半年です。お気の毒ですが・・・」
最近風邪でも無いのに変な咳が出るから、念のためといった感じで病院に行くと・・・いかにも医者って感じの奴にオレは死を・・・宣告された。
オレは東条貴也(とうじょうたかや)22才、今人気絶頂のバンド、X crossのvocal・・・メンバーは五人でもうすぐメジャーデビューも決まっていたくらいの実力があった。
さらにオレは今から2ヶ月後、同じバンドのguitarで中学時代からの彼女、宮根香穂(みやねかほ)との結婚が決まっていた。
・・・何もかもがうまくいってて、自分に怖い物なんて何も無いと思ってた矢先の出来事だった。

病院を出ると、オレは大声でみっともないくらい笑った。何故笑ったのかは自分でもわからない。ただ、虚しさを紛らわしたかっただけのか・・・自嘲を含んだ笑いだったのか・・・わからない。
笑い終えると、腫れ物でも見るような人々の視線を無視して何事もなかったかのように家路に着く。
部屋からシチューの良い臭いが漂ってくる。
(香穂が・・・いるのか・・・)
「ただいま。」
「ぁ、貴也、おかえり!!へへっ、貴也の大好きなシチュー、出来てるよ?早く食べよっ!!」
そう香穂が言うと机にはおいしそうな料理が広がっているが、食べる気にならない。
「ゴメン・・・いらねぇわ。」
自分でもかなり冷たい口調になったな、と思う。まぁ、あんな事の後じゃ当然かもな・・・
「・・・せっかく作ったのに・・・」
そう呟くように言うと香穂は一人で泣き始めた。「お、おぃ、泣くなよ・・・ぁーわかった、わかった!!オレも食うから泣きやめって!!」
「・・・ホント・・・?」
香穂が上目使いで、見上げてくる。
「・・・そ、その顔やめろよ。そ、その・・・欲情しちまうだろ。」
「良いよ・・・貴也なら・・・」
・・・この後は飯も食わず(後で怒られた・・・)、オレは狂うように香穂を抱いた。

気がつくと朝で、横では香穂がスヤスヤ眠っていた。
「このまま死んだら・・・この可愛らしい寝顔も拝めねえのか・・・畜生・・・」
オレはブラックコーヒーを入れながらバンドのメンバーでbass担当の梅沢陽(うめさわよう)に電話をかける。
「もしもし・・・陽か?朝早くにわりいな。」
「おぉ、貴也、どしたんだ?」
「新曲とオレの病院の結果について・・・言いたいことがあるから会えねえか?」
「わかった、貴也ん家の近くの喫茶店に11時くらいで大丈夫か?」
「あぁ、いいぜ」
電話が終わると香穂がちょうど起きる。
「・・・貴也・・・おはよ・・・昨日は大胆だったね・・・」顔を真っ赤にしながら香穂が言う。
オレは・・・香穂に余命の事を話すべきなんだろう、でもそれをしないのは・・・怖いからなのだ。
事実を知って香穂がオレの前から消える事が怖いのだ・・・
「なぁ、香穂・・・明日花見にいかねぇか?」
「花見?・・・わぁ、嬉しいなぁ・・・行く行く!!」
「じゃあ行こう。夕方準備しよーぜ。それと今からちょっくら陽に会いに行くわ」
そう言っていこうとすると、香穂に腕をひっぱられる。
「なんだよっ香穂・・・んっ・・・」
文句を言おうとすると不意に唇を奪われる。
奪った本人はとても嬉しそうに微笑んだ。
それを見たときオレは不意に少し泣いてしまった・・・この笑顔をもっともっと長い時間独占したい・・・と。

その後陽に会い、オレは事実を伝えた・・・
「・・・マジかよ・・・嘘だろ?あと半年?・・・ふざけんなよ・・・なんでだよ・・・くっ・・・」
ガキの頃からの親友の涙は見ていて心が締め付けられた。
「香穂にはまだ言ってないのか・・・?アイツは貴也を・・・死ぬほど愛してるぞ?」
「明日言う・・・つもりだ」「そうか・・・」
陽とこの後、香穂を除く残りの二人のメンバーにもこの事を伝える、といって帰っていった。


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