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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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略取3-4

 指定された場所は古ぼけたビルの地下だった。エレベーターはなく、細い階段があるだけだ。沼田はそこを下りていった。薄汚れた壁にはポスターが貼られたあとが白く残っている。下りきった突き当たりにドアがある。恐る恐る押すと難なく開いた。
 端の方に丸い回転式のテーブルが一卓置いてある。あとはがらんどうだ。ほこりまみれの床にはいくつか足跡がある。他にもテーブルが置いてあったようなあともある。元はレストランだったのだろう。
「すみません」と声をかけると奥のドアが開き、料理人の格好をした小柄な男が現れた。名を告げるとそのドアの中に招き入れられた。男は右足を少し引きずっている。
 その奥は通路になっていた。右へ左へと曲がりくねり、いくつもあるドアを通りすぎ、一番奥にあるドアの前で立ち止まった。
 ドアをノックすると中から「はい」と声がした。男の不気味さと通路の薄暗さに不安を感じていたので、岩井の声にホッとした。日本人のようにも中国人のようにも見える男は一言もしゃべらず、腰を折ってから戻っていった。
 中華風のこぎれいな部屋だった。二人では広すぎるくらいだ。丁寧に挨拶してから岩井の正面の席に座った。
 ドアがノックされ、先ほどの男が紹興酒の瓶とグラスを持って入ってきた。通り過ぎた部屋の一つが厨房になっているのだろう。通路を歩いているとき料理の香りを感じたことを思い出す。
「料理を頼む」
 岩井の指示に恭しく頭を下げ、男は出て行った。
「今日はご足労をかけました」
 岩井がグラスを掲げたので慌てて同じようにする。沼田はかしこまり、グラスは届かないので下げた頭の上に掲げた。相変わらず強い人間の前では意気地がない。
「そら、飲んでください。酒が入らないと沼田さんらしくありませんからのう」
「恐縮です」
 おちょぼ口で紹興酒を飲んでいると「楽しんでいただけましたかな」と問われ、沼田はむせた。例の写真のことだ。
「あ、あれは、その……」
「沼田さんが知っている女のほうが楽しめると思ってのう」
「ええっ、で、では、あれは」
 思わず腰をあげると、がたんと椅子が鳴った。
「うん、お宅の社員の下村沙也加です」
 あっさりした言い方に、脳天を思いきり叩かれたようなショックを受けた。
「ど、どうして、こんなことにっ」
「うーん、生意気だから、ですな」
「な、生意気……」
 沼田ははっとした。中腰であることに気づき、慌てて腰を下ろす。
「もしかしたら彼女は例の件……」
 岩井が人差し指を唇に当てたので、パチンと音をたてて口を手で覆った。
 男が料理をのせたラックを押して入ってきた。テーブルの上に高級そうな料理がずらりと並んだ。
「もう帰りなさい」
 岩井がバッグから取り出した札束を手渡すと、男は破顔して受け取り、そそくさと出て行った。最後まで男は口を開かなかった。
 料理人のことを聞くと、「全部沼田さんへの謝意のつもりです。さ、食いましょう」と口を濁した。これ以上の質問はやめた方がいい。直感でそう感じた。この場所がどんな場所なのかも聞かない方がいい。酒と料理を楽しもう。
 どれを食べてもすばらしい味だった。料理も酒も一級品だ。あの小柄の男はきっと名のある料理人なのだろう。これらの後片付けのことも気になったが、それも聞かない。沼田を招待するために岩井が彼を大金で雇ったのだ。それはそれで鼻が高い。少し気が楽になった。
 酒が入るごと、緊張がほぐれていった。沙也加のこともできるだけ考えないようにしているのだが、それは無理だ。今も黒人に犯されているのだろうか。もうあの黒人の女になってしまったのだろうか。あの写真から、そんな気も……。
 ――いや、そんなわけがない。
 体に縛られたようなあとがあったではないか。沙也加は拉致されたのだ。そして無理矢理犯されたのだ。心配とは裏腹に下半身に血液がたまっていく。後ろめたいが、抑えようもない。
 先ほど岩井は『謝意のつもり』と言った。謝意とは恵のことだ。
 ――いやいや、考えるのはやめよう。もっと楽しいことを。
「沼田さんの酒は楽しいですなあ」
「いえいえ、先生のお話があまりに奥が深いですから、もう驚きの連続でして」
 岩井の声に我に返った。無意識に生返事を返していた可能性もある。冷や汗が背中を伝う。
「沼田さんにはもっと楽しんでいただこうと思いましてな、こんなものを用意しました」
 岩井はパンパンと手を叩いた。ややあって奥の方の扉が開いた。台に乗った大型の液晶モニターが現れた。沼田は息をのんだ。そのモニターに驚いたのではない。それを運んできた男に目を奪われていた。沼田のそばを通ったとき、岩井とは別の獣のような匂いがした。写真には顔は映っていなかったが、沙也加を田楽刺しにしていたのはこの男だ。摩天楼のような黒人は沼田を見下ろして白い歯を見せた。


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