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痴漢専用車両へようこそ
【痴漢/痴女 官能小説】

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卒業-3

同じ頃に、心穏やかでない者は他にもいた。悠子と同じように、陽子も塞ぎ込む事が多くなっていたのだ。その姿を目にした悠子は、気になって仕方が無かった。なんとなくだったが、陽子に避けられている事も自覚していた。

気の弱い悠子にとっては、親友に避けられていると考えるだけでも、耐えられるものではない。星司に相談しようとも考えたが、自分の親友の事なので、さすがにそこまで頼るのは憚れた。

「陽子ちゃん…」

悠子は大学の門を出た陽子の背中に向かって、勇気を出して声を掛けた。

「悠子…」

振り向いた陽子は驚きの表情を浮かべたが、それが見る見る内に辛そうな表情に変化していった。自分を見つめるその顔を見るだけで悠子の心は傷つき、この場を逃げ出したくなった。しかし、自分が呼び止めた手前、なんとか平静を保って気になる事を親友に訊ねた。

「陽子ちゃん、あたし何かした?」

「えっ…」

悠子の問いに、陽子は戸惑った。

「陽子ちゃんから避けられるような事した?」

悠子の思い詰めた顔を見て、陽子は自分の態度が、繊細な親友を傷つけていた事に初めて気付いた。何故ならこの頃の陽子は、他に気を向ける精神的余裕が無い時期で、悠子の事まで気が回っていなかったのだ。

「い、いいえ…」

「うそよ!じゃあ、どうしてあたしを避けるのよ!」

否定する事で、とりあえず親友を気遣う事ができた陽子に対して、反対に気遣う余裕の無い悠子は、親友に詰め寄った。

「…」

陽子に咄嗟の返答は出来なかった。

「陽子ちゃんも思ってるんでしょ!」

普段大人しい悠子が感情を昂らせて迫ってくる姿に、陽子の心はザワついた。

「何がよ」

返された棘のある言葉に、悠子は更に感情をぶつけた。

「どうせ、あたしが各務の家に入るのが無理だと思ってるんでしょ!」

この一言が、陽子に辛うじて残っていた親友を気遣う余裕が、完全に吹き飛んだ。

「誰が無理って言ったのよっ!誰のせいであたしが苦しんでると思ってるのよっ!悠子のせいで、悠子がそんなせいで…」

怒鳴る陽子の目に、どんどん涙が溢れてきた。いつも勝気な陽子の今までに見た事も無い様子に、悠子の昂りは一気に引いてしまった。

顔を覆った陽子は、たじろぐ悠子に踵を返すと、その場から逃げるように走り去って行った。悠子にはワケがわからなかった。ただ親友の背中を見ながら、こちらも涙が溢れて仕方がなかった。

「あたしのせいって、何…」

泣きながらつぶやいた悠子の心は、今まで以上に重くなっていた。

「星司くん…」

もう悠子に頼れるのは星司だけだ。悠子は沈んだ心のまま、星司とのいつもの待ち合わせの場所に向かってトボトボ歩きだした。

大学の校内にある緑地の中の遊歩道。その道を進むと、幾つか枝分かれしている場所がある。メイン通りをそのまま進めば、ぐるっと回って元の場所に戻る回廊になっている。数えて三つ目の別れ道、他より少し狭まった道を左に進めば、ベンチが一つだけポツリと置かれた空間に突き当たる。そこは余り人が来ない2人だけのお気に入りの場所だった。

いつも幸せに包まれたその場所に出て、愛する男の姿を認めた悠子は、小走りで駆け寄った。いつも頼もしいその胸に、悠子は涙に濡れた顔を押し付けた。

悠子を迎えた星司は、その様子に今は何も声を掛けるべきでないと覚っていた。ただ、自分の胸にしがみついて泣く悠子が、少しでも落ち着くように、優しく頭を撫で続けた。悠子はその星司の癒しに暫く甘え続けた。

泣き止んだ悠子は、星司と肩を並べてベンチに座ったが、いつも以上に星司の手を確りと握っていた。まるで、手を離せば星司が何処かに行ってしまうと思っているかのように。



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