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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜2nd Emotion〜-8

「せやな」
彼女は崩していた足の片方を体育座りのように抱えた。そのせいで、藍色のチェックのスカートから細く、白い太腿が露になったが、僕はうまく冷静を装うことに成功した‥‥と思う。
「うちも好きやな」
僕はアップテンポのリズムが僕たちの空気に合わないのを感じ、CDのトラックを先送りした。それに対して筑波は何も言わずにケースからブックレットを取り出す。
変わってスピーカーが紡ぎ出すのはゆったりとしたミディアムバラード。
「‥‥なぁ、筑波?」
「何?」
彼女は歌詞カードから目を上げない。
「何も、聞かへんのか?」
「喋りたいん?」
彼女は相変わらず視線と指先で歌詞を追っている。俯き、垂れたダークブラウンの前髪が筑波の表情を覆い隠す。
「別にな、うちは神崎くんから何かを聞き出そうと思ってこんなとこまでついて来たんちゃうで。ただ普通に遊びに来ただけやで」
そこまで言い終わってようやく、歌詞カードをケースに直し、微笑を浮かべて僕の瞳をまっすぐに見つめた。僕は何となく、いたたまれない気分で目を逸らす。
「だから」
筑波が僕に近づく。
「話したくなったら、うちに話してみてぇな」
掴まれた二の腕から、彼女の体温が伝わる。温かい、彼女の温もり。
「‥‥昔話でも、しよか」
僕は、遂に根を上げた。

前述の通り、僕にも中学時代、彼女がいた。名前は、堀川玲子。まだ残暑の厳しい、中2の秋口に僕のクラスに転入して来た彼女は、僕の隣の席。『隣の席の美少女転入生』。実に漫画的で、今思えば笑ってしまう。
僕は隣だということで、割と絡むことも多かった。最初は教科書を見せたり、話し相手になったり。‥‥まぁ、他のクラスから彼女を見に来る生徒は多かったけど(どうでもいいことだがその9割は男子生徒)。

僕はそんな感じで、最初は何も無かったし、何とも思ってはなかった。
しかし、転機が訪れたのは、その年の冬。──いや、もう春だっただろうか?  6限目の授業が終わり、帰途に就くために自転車の鍵を開けたときだった。
かしゃん、と小気味よく自転車の鍵が開いた音とほぼ同時に背後から名前を呼ばれ、振り向いた。そこには息を切らせ、頬を上気させた玲子の姿。後ろに乗せて欲しい、と彼女は手を合わせて僕を上目使いに頼んだ。帰り道が同じ(これも実に漫画的だと言わざるを得ない)だった僕はその申し出を断ることはできなかった。



止めて。



後輪とフレームの連結部分に足を掛けて乗っていた彼女は、頭一つ分僕より高い位置にいた。そのためかどうかはわからないが、その声は天から聞こえているような感じがしたのを覚えている。

自転車を止めたのは公園の前。寄って行こう、と言う彼女に、早く帰りたかった僕はそれを拒否した。けれどどうしても、と懇願する彼女を説き伏せるほど僕の口が達者ではなかった。

僕と玲子は、冬の匂いが色濃く残る公園のベンチに座った。裸のまま春を待っている名前も知らない木々が、僕たちの背後で北風に揺さぶられていた。

話したことといえば学校のことや、互いの友人のことについてなど。大概が下らないこと。それが10分くらいだろうか? 一瞬ふと公園の時計に目を向け、そろそろ帰る、と伝えようともう一回視線を玲子に戻そうとしたときだった。


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