投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Mirage
【純愛 恋愛小説】

Mirageの最初へ Mirage 19 Mirage 21 Mirageの最後へ

Mirage〜2nd Emotion〜-6

「その‥‥ありがとな」
僕は彼女の目を見れなかった。
「何が?」
その僕の顔を筑波が覗き込む。心なしか、その声は笑っている。
「いや、だから、傘‥‥」
「どういたしまして」
満足そうな表情で彼女は胸を張った。
じゃあ、と言ってホームへと進もうとすると、筑波が僕の右腕を掴んだ。その引っぱられる力の思いがけない強さに、僕は後ろ向きに転びそうになった。
「ホームまで送るよぉ」
振り返ると、困ったような顔の筑波の顔がそこにあった。反論の言葉を吐き出しかけた口を閉じ、少し考えたが、別に断る理由も見つからない僕は彼女の申し出を快諾し、お互いの定期を使ってホームへと進んだ。次の電車は1分後。もうそんなに時間は無い。
僕と筑波は、電車の到着を知らせるベルが鳴り響くまでお互いに口をきかなかった。
電車に乗り込み、一度振り向いて手を振ると、彼女も笑って振り返す。
発車のベルの音で、僕は彼女から目を離した。そしてドアが閉まる音を背に、反対側のドアの方まで進むと、そこへ背中を預けた。

‥‥ん?

「何でおんねん‥‥」
僕の声は自分でも驚くくらい疲れ果てていた。
そんな声にも、筑波はにこにこと笑っていた。








「ふーん」
筑波は僕の部屋に入るなり、開口一番そう言った。
結局、彼女に押し切られる形で、僕は筑波を家まで連れてきてしまった。幸い、親はいないのだが、それがかえって心苦しい。

「何やねん?」
僕は濡れた制服のブレザーをハンガーに掛け、カッターシャツにスラックスのまま、着替えをタンスから引きずり出しながら訊く。

「神崎くんって、やっぱきれい好きやねんな」
その横で、ケースに整然と収められたMDやCDを物色しつつ、納得したように頷く筑波。‥‥そんな風に見られてたんか‥‥。
「ま、とりあえず俺はシャワー浴びて来るけど‥‥あんましそこら中触んなや?」
「何? 先にシャワー浴びて来るって? きゃー、嫌やわ」
おどけて見せる筑波に、僕はため息を漏らす。‥‥コイツこんなキャラやったっけ?
「まぁ‥‥ええわ。頼むからじっとしときや」
そう言って僕は後ろ手にドアを締めた。筑波がぼそりと何か言ったようだったが、それも分厚い木の板に遮られ、僕の耳には届かなかった。







「冷てっ」
思わず呟き、僕はシャワーから体を離した。蛇口を捻った途端、冷たい水がシャワーヘッドから飛び出したのだ。自分でもベタだと思う。そんな自分の滑稽さを嘲笑い、再びノズルをこちらに向けたときには水はお湯に変わっていた。
しばらく頭から熱めのシャワーを浴びながら、僕は思考を巡らせた。もちろん、今は部屋でじっとしているはずの女子高生に関して。


Mirageの最初へ Mirage 19 Mirage 21 Mirageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前