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迎春。
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迎春。-4

「…それでは、ご案内します。ついて来て下さい」
 来た道とは反対に進もうとする優梨に、雪二は待ったをかけた。
「そっちは逆じゃない?」
「え?」
「いや、一応ここには二年間通ってたから。行き方とか知ってるし」
 だから、こっちから行った方が近いよね、と指差す雪二。その様子を見て、優梨はため息をついた。
「…あのですね。先輩はご自分の立場をわかってらっしゃいますか?」
「え。菱川さんの助手をやるんじゃ」
「じゃなくて!」
 思わぬボケに声を張り上げる優梨。片手を腰にあて、雪二詰め寄る。
「雪二先輩は、この学校の女子生徒の憧れなんです。何日も前から先輩が帰ってくるのを待ちわびて、その勢いはもう…すごいんです。だから、普通に行ったら確実に研究室には辿り着けません」
 だからこっちから行くんです、と念を押す優梨を驚いたように見ると、雪二はくつくつと笑い始めた。
「…なんでしょうか」
「いや、なんでもないよ。ただちょっと」
 どうやら笑いが止まらないらしい。咳払いをして、必死に笑いを抑えている。
「…ごめん。可笑しくてさ」
「はぁ」
「まだ…僕なんかに興味を持ってくれているんだね」
 言葉が、でなかった。
「そう思ったら笑いが止まらなくなっちゃったよ」
「…………」
「だって、ねぇ?三年もこっちにいなかったのに」
 僕がまだあの頃と同じだって保証もないのに。
 そう言うと、雪二は同意を求める様に優梨に笑いかけた。
 優梨は困惑してうまく頷けない。――なんだか恐くて。
 そして、少し苦しくて。
 その様子に気付いたのだろうか。雪二は
「でもまぁ、そんなに変わったつもりもないけどね」
 そう付け足すと、雪二は行こう、と言って優梨を促した。
 優梨は返事をすると、校舎の裏手に向かって歩き始めたのだった…。


「……で、どうしよっか」
「強行突破は…」
「経験上、大変な事になるのは必至だね」
「ですよねぇ…」
 優梨と雪二は無事校舎内に入ると、経営学科第二研究室に続く廊下を曲がろうとした。
 それなのに、だ。
「どこから情報が漏れたんですかね。到着は明日だって、嘘の噂を流したのに」
「あぁ…あのコたちの執念は、人知を越える事があるから。気にしない方がいいよ」
「そ、そうですか…」
 そこには、どこから湧いて出た、と思う程の女子生徒たちが群がっていたのだ。
 その網をどうやって抜ければいいのか。優梨と雪二は物影に隠れながら、かれこれ二十分程悩んでいた。
「…やっぱり、今日は一旦帰った方がいいんじゃありませんか?」
「けど、明日から仕事の準備とかあるし。それに、午後に宅急便で資料や本が届くはずだから。その受取は自分でしたいんだよね」
「じゃあ、どうしましょうか」
 窓から入る、というのも考えなかった訳じゃないが、ここは三階なので物理的に無理があった。


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