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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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略取1-2

 車窓から見える田んぼや緑地をぼんやりと眺める。丘陵の美しい稜線を望む。しかし沙也加には長閑な風景を味わう気分はない。
 奈津子に傾倒しすぎていることをずっと危惧していた。いつか発覚してしまうのでは、とずっと恐れていた。これだけの人数の大人の男女がいる中、愛欲にまみれている社員もいるだろう。しかし、部下の妻との不倫が発覚すれば、総すかんを食らうことは間違いない。果たしてそうなってしまった。何度田倉に進言しようと思ったことか。悔やんでも悔やみきれない。もっとも進言したとしても聞き入れてくれるとは思えない。
 発覚した経緯はわからないが、写真を送ったのは明らかに悪意からだ。沼田の顔が思い浮かび沙也加は首を振った。田倉のことだ、そんな状況すらいとわないと考えていた可能性もある。ただ沼田の大逆転は想定外だっただろう。いずれにしても、そうまでして愛される奈津子が羨ましかった。
 不可能を可能にした自信からだろう、役員会議での沼田の答弁は完璧だった。計算し尽くしたように田倉の信頼を失墜させた。不倫のみでの降格人事は聞いたことがないが、絶妙なタイミングでの現場写真はそのトリガだった。狂いだしたら坂道を転がるように堕ちていった。
 アパートは古色蒼然としていた。というより、ただただ古いだけであった。田倉がこんなところで暮らしているなんて信じられなかった。
 ノックすると血色の悪い顔をのぞかせた。見るからに痩せ、頬が痩けていた。笑顔を見せるが生気を感じない。沙也加は田倉の健康を危ぶんだ。そのことをいうと、大丈夫だと苦笑した。
 田舎のアパートは総じて安くて広い。田倉の住んでいるアパートもそうだ。置いてあるものが質素なのでよけいにだだっ広く感じる。必要なもの以外持ってこなかったらしい。残った家具やら小物で使えそうなものは離婚した妻にやったと言う。
 田倉は奈津子との顛末を淡々と話した。うわさのほとんどが真実であった。佐伯の家に押しかけたうわさも本当だった。もう逢うことは叶わないが、今でも奈津子のことは愛していると言い切った。ここまで田倉を虜にした奈津子とはいったいどんな女性だろう。
 保全地区の問題では、岩井と交渉した時点で見込みなしと判じた。田倉がそう判断したのだから間違いない。それでも、もう一度、面会を申し込んだ。先方は後日連絡すると言ったきり、なしのつぶてだった。こちらから催促したが、あっさりと断れた経緯がある。相手にするつもりもない、といった態度がうかがえた。数々の手を打ったが万策尽き、田倉は方針の見直しを上に強く進言したのである。会議で沼田が言ったような消極的な行動はない。その証拠に田倉に全幅の信頼を寄せる役員らもその考えに同意し、方向転換しようとしていたのである。その矢先であった。
 いったいどんな方法で岩井を動かしたのだろう。
 交渉期間と思われる数日間、沼田はずっと外勤だった。会社に顔を出すことはほとんどなかった。日誌すらない。あえて作成していない可能性もある。
 保全地区の許可に関して何となく解せないものがあると、沙也加はとどめていた心情を吐露した。確固たる理由もなしに人を非難することに抵抗はある。しかし、どうしても不穏な空気をぬぐい去ることができないのだ。田倉の表情はうつろだった。
 玄関先で別れのあいさつをする田倉が老人のように見えてゾクリとした。舗装されていない道にずっと立ち尽くし、タクシーに乗った沙也加を見送ってくれた。
 不意に涙があふれた。会社のために多大な貢献をしてきた有能な人材を、あっさりと切り捨てる経営者たちに怒りを覚えた。
 沙也加にはもう一つやることがある。この足で佐伯義雄に会うことだ。今日は初めからその予定だった。佐伯がここ数日休んでいるので心配だったからだ。そう思ったとき、頭の中に閃くものがあった。佐伯が休んでいる間、沼田もずっと会社に顔を出していない。沼田曰く、必死の思いで岩井と交渉していた時期であった。しかし、いくら考えても何の意味も見いだせない。単なる偶然の一致だろう。
 佐伯のケータイに連絡して会う約束をした。家に伺う許可を得た。図々しいと思ったが、その後の状況をこの目で確認したかったからだ。佐伯にとっては迷惑だろうが。
 対応したのは佐伯だった。相変わらず暗い表情をしている。家に上がるよう沙也加を促す。身構えたが奈津子はいないと、佐伯が頬をゆがませて言った。
 家の中はきちんと整頓されている。室内のインテリアに品がある。玄関に入ったときから感じていたことだ。全て奈津子のセンスだ。この部屋に田倉は上がり込んだのだ。権限を乱用し佐伯を遠くに追いやり強引に上がり込んだ、との告白を思いだし、忸怩たる思いに苛まれる。
 心配していたと伝えると、初めて表情を崩した。本来の姿を見た気がして、熱いものが込み上げた。以前はいつもそんな表情をしていたのだ。ほとんど気にもしていなかったことが、ある切っ掛けで意識するようになる。不思議なものだ。一瞬見せた佐伯の笑顔に心が和む。
 休んでいた理由を聞かされて沙也加は驚いた。娘の恵が家出をしたらしい。ただし連絡はあるとのことだ。そのままでいいのかと聞くと、どこにいるのかわからないという。だれといるのかもわからない、聞いても答えない。どうやら学校には通っているらしい。奈津子がいないのは、恵に会うため学校に行っているからだ。ある程度の会話はあるらしい。離婚していないことにひとまず安心したが、今度は娘の家出といった由々しき問題が加わった。原因はいうまでもない。
 沼田の昇格と田倉の異動を伝えると複雑な表情を見せた。佐伯にとって憎んでも憎みきれない男が、知らないうちに目の前から消え去ったのである。恐らく二度と会うことはないだろう。田倉に会いに行ったことを話すのはやめた。


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