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白色金 (white gold)
【ファンタジー 官能小説】

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告白と距離-1

 言葉さえ交わせなかった“憧れの彼女”との関係は、順調と言って良かったと思う。
しかし先回一緒に映画を観に言った事が、デートと呼べるものかどうかは危うい。
実際その後は手詰まり状態が続いており、唯一の望みはD.V.D.返却を口実に連絡を取ることであった。
夏休みが明ければ学校と言うオフィシャルな場で、彼女を目にする事も話しかける事も容易になる。
つまりその為に自宅を訪ねる必要は無く、学校で返せばいいだけの事になる。
それは何故か僕にとって、以前となんら変わらぬ関係に逆戻りする様に思われてならなかった。



 8月31日

 借りていたD.V.D.とオーガニックの茶葉を携え、夏休み最後の日僕は唐突に彼女の家を訪ねた。
いきなりの訪問は非常識ではあったが、事前に連絡をすれば学校での返却を促される危惧を感じていたからだ。

 そして何故かこの日、僕は彼女が自宅に居る様な気がした。

 ドアホン越し驚く彼女のニュアンスが伝わってきたが、左程待たされる事は無く玄関のドアは開けられた。
予感通り彼女は居てくれたが、この場合悪い事に他の家族が全て不在であった。
当然の事ながら部屋に通される事は無く、用件のみを済ませ帰る事に…… それは微妙な空振りに終わるはずであった。

「あのっ、駅までお話しませんか?」
駅のホーム、ベンチふたりならんで話していた。
彼女は電車の待ち時間まで気にかけてくれて、そうしてくれたのであろう?
それは彼女の気遣いとも、自然な優しさとも感じられた。

(なんか初めて彼女と話した時みたいだなぁ)
彼女の横顔を目にしながら、不意にそんな想いが過った。
時間帯こそ違っていたが駅のホームは人影が疎らで、イメージ的に丁度そんな感じであった。
同時に今日果たさねばならない目的が、繰り返し脳裏をよぎる。
ロマンティックな環境では無かったが、おそらくこれが最後のチャンスだとも思えた。

「磯崎さんは覚えて無いと思うけど、僕たちは中学校からのクラスメイトなんだ。正確に言えば三年生の夏休み明けに、君が転校して来てからなんだけど」
口の中が乾き鼓動が異常なリズムを刻んで、もう後戻り出来ないと思った。
緊張から横に居る彼女を直視する事は出来なかったが、それでも周囲の温度が確実に変わった事は感じられた。

「ずっと君を見ていた。友達になりたかった」
どう伝えるべきか、頭が混乱していた。
それでも言葉を慎重に選ぼうとしていた。
この期に及んでも、完全に彼女との関係が切れてしまう事に恐れを感じていた。

「わっ、わたし、クラスのみんなが思ってるみたいに嫌な女ですよ。気分屋で好き嫌いが激しくて、人に負けるのが大嫌い。それに馬鹿な男子は嫌いだし、不潔な男子はもっと嫌い、時間にルーズな人も苦手。友達になんかなっても、良い事なんか無いし疲れるだけで、きっと後悔しますよ」
うわずった感じのちょっと甲高い声は、いつも教室で見ている優等生のそれではなくて、内に秘めた何かをぶつけてきているよう感じられた。

「解ってる、解ってるよ。きみと居るとすごく緊張するし、正直、ちょっと疲れる。でも、それは僕がきみにずっと憧れてて…… きみみたいに何でも上手に出来て、きれいな子は友達としても、僕にはとてもハードルが高いのは解ってる。だけど、少しの間でもいから友達になりたい」
そんな彼女につられる様に、僕は今までの想いを全てを素直に告げた。
でもそれはちょっと中途半端な感じで、告白とも取れぬあやふやなかっこ悪いものになってしまった。

「ずいぶんハッキリ言うんですね」
彼女はそう言って僕の前に立つと、自然と立ち上がる事を促してきた。
ながい、ながい沈黙に感じた。
どうすれば良いか分からなかった。
彼女の言う「ずいぶんハッキリ言う」の意味するところが、“疲れる”に対しての抗議なのか? それとも“憧れてて”に対しての反応なのか?
そんな僕の不安とも取れる“ちゅうぶらりん”な距離を彼女は不意に詰めてくる。

「解ってないっ、解るはず無いっ、わたし…… わたしは、きれいなんかじゃ…… もう……」
そう言うと、一歩あゆみ寄り、額を僕の胸に「こつっ」と押し当ててきた。
さらさらの綺麗な髪から、“ふわっ”と甘い香りがした。
突然の事に、胸がすごくどきどきした。

(あぅ、あぅ)
その時の僕の表情は、きっと水面から釣り上げられた魚みたいだったと思う。
でも次の瞬間、僕のそんな浮ついた気持ちは消え失せた。
湿り気を帯びた熱い空気が胸に伝う。
顔は見えずともそれが彼女の涙である事が、小さな肩が小刻みに揺れる事で分かった。



 夏休み明けの登校日

昨日からの流れもあり、教室に入る前から緊張していた。

(どう接したら良いのだろう?)
周囲とのバランスを考え夏休み前と同様に接するべきか…… それとも……

それでもいつまでも教室に向かわない訳にも行かず、実際の重み以上の引き戸に手を掛ける。

「おはよう、不易くん」
声の方向に目をやると、少しぎこちない笑顔の彼女がそこには居た。
一瞬、教室がざわめくのを感じた。

「おはよう、磯崎さん」
それでも僕は精一杯の勇気を振り絞り挨拶を返すと、さもそれが当然であるように彼女に歩み寄り話しかけた。
話題は何でも良かった…… ただうれしくて、その距離を保つことに必死だった。

 その距離感は“カノジョ”と呼べるものにはまだ遠かったが、友達以上である事は当事者同士を含めクラス全体が認識するところであった。

あふれる程のうれしさを感じながらも、昨日彼女が言っていた言葉……

「解ってないっ、解るはず無いっ、わたし…… わたしは、きれいなんかじゃ…… もう……」

…… その意味深且つ謎めいた言葉が頭から離れなかった。


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