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白色金 (white gold)
【ファンタジー 官能小説】

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茶葉と映画-2

 DVDのタイトルは「コンタクト」、カール・セーガンによるSF小説が原作で、SETIプロジェクト・人類と宗教・政治・地球外生命がテーマの10年近く前に映画化された物である。

「映画とか好きなんですか?」
内容的に言えばお父さんの物に思えたが、意外な事にそれは恵利子の持ち物であった。

「えっと、小説の方は読んだんだけど、映画化されたほうも気になってたんで」
実際小説を読んでいたのは本当であったが、後半の映画化された物に興味を持ってる部分は嘘である。

「どの辺りに興味を感じますか?」
恵利子は僕のそんな心を見透かすかのように、ひどく抽象的な質問をしてきた。
瞬時に“当校への志望理由は?”、そう面接官に問われた気がした。

「カール・セーガンの本を読んだのは初めてなんだけど、やっぱりアロウェイ博士の信念をかけた戦いと心の成長の部分かな? あと小説だと上下巻で700ページあったものが、映画と言う手法で上手く表現されているのかなと思って」
至って平凡な感想であったが、その時僕を見る恵利子の瞳の温度が変わった気がした。

これは帰宅後感じた事であったが、この時の答えの比重が“映画”についてではなく、“コンタクト”についての的を得た感想であった事が正解であったと思われた。

 正直先程までの恵利子の対応は学校での感じそのままで、とても自分の恩人?を招いたそれとは思えなかったのである。

「お母さん、わたし…… 不易さんのこと、駅までお見送りしますね」
娘の以外な心境の変化に気付いた母は、そっと頷き同意した。

「汐莉も行きたい!」
双子の妹のひとりも何故か随伴を申し出る。

駅までは徒歩で十数分の距離であったが、幸いにも会話が途中で途切れる事は無かった。
もちろんそれは、小説コンタクトについての話題であった。

「お兄ちゃん、また遊びに来てね!」
汐莉ちゃんが無邪気な笑顔で、手を振って見送ってくれる。
恵利子が手を振ってくれる事は無かったが、その表情はまだまだ話し足りない雰囲気をにじませていた。



 翌日の朝 

「…… 聞こえてるの? 一文、電話よ。磯崎さんから電話よ、か・ず・ふ・み!」
微睡む意識の中、母親の声が階下より響いてくる。

(ん!  あれっ? これは、デジャブ? それとも夢?)
僕はベットより飛び起きると、階段を駆け下り深呼吸をしてから受話器を取る。 

「あのっ、わたし、今日午後から図書館に本を返しに行くんですけど…… よかったら、改めてお礼を言いたくて」
受話器から聞こえる声は、僕の心をときめかせる。
言葉少なに要件のみ正確に伝えてくるところが、如何にも彼女らしくもあった。

 数時間後、僕たちは図書館入口にあるベンチに並んでいた。

「えっ!? それも読んだんですか?」
恵利子は学校とは別人の表情を浮かべ、ちょっとコミカルな身振りで感情を表現する。
その仕草はとても可愛らしく、幸福感にも似た感情が僕の中で膨らんで行く。

「“ダヴィンチ・コード”の方がメジャーで先行しているイメージが強いけど、実は“天使と悪魔”の方が先に書かれてて……」
彼女はにこやかに頷きながら、興味深く僕の話に耳を傾けてくれていた。

(やばいっ、可愛いだけじゃない! 恵利子と話していると楽しい!)
時間を、会話を共有していく事で、互いの価値観のピースが徐々に組み合って行く様に思えた。
僕は入院期間中に読んだ本たちに感謝せずにはいられなかった。


 時間的な制約も有り楽しい時間は、決して長い物では無かった。
それでも僕は家に帰り部屋に入ると、嬉しさを爆発させずにはいられなかった。
それは恵利子と僕が読んだ小説が、丁度映画化され上映されている事に端を発した。

「その映画ちょっと気になるね」
わざとらしい事は百も承知のフリだった。
必死…… だったと思う。
どんなやりとりをしたのかもあんまり覚えて無いくらい必死で、たぶん僕は卑屈なまでに恵利子にお願いしていたのだと思う。

それでもまんざらでもない困り顔を浮かべる恵利子に、少なからず手応えを感じ“一度だけと言う約束”で了承を得るに至った。

もっともそれは“デート”と言うには味気ない共有時間で、映画の上映時間だけ隣同士の席に座ると言う恵利子からの条件付きであった。


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