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サイパン
【戦争 その他小説】

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第十一話 空襲-2

 間もなく午後一時を回ると言ったところか、演習場に急にけたたましくサイレンが鳴り響いた。
「なんだ……?」
 杉野は続けていた射撃をやめ、空を見上げた。
 雲の少ない綺麗な青い空だったが、それはほんの少しの間だけだった。西の彼方に、急速に黒い点が増え始める。
 その黒点が敵機であると認識するのに、そう長くはかからなかった。
「敵機だ! 訓練中止! 全員、手近な豪へ飛び込め!」
 杉野は素早く立ち上がって指示を飛ばした。長時間続けた膝撃ちのため、折り曲げていた右足がジーンと痛い。しかし、それごときに気を取られているヒマなど微塵もない。敵機が迫っていた。


 グウゥゥゥゥゥゥ-ン……!!
 迎撃のため、海軍の零戦が次々と勢いよく飛行場から飛び立っていく。その様を今野は避難のために飛び込んだ重機関銃陣地から見つめていた。
 上空では味方の高射砲から撃ち出される対空砲弾が炸裂し、青空に黒い花を咲かせている。その間を縫うように敵機はやってきて、急降下爆撃や機銃掃射を繰り返している。
 駐機している陸攻に爆弾が直撃し、大爆発を起こす。滑走中の零戦に敵機が機銃掃射を仕掛け、零戦は離陸すること叶わずに燃え上がった。
「ちくしょう!」
 機関銃手の兵士が、空に砲口を向けて射撃を始めた。特有の重い射撃音が響く。
 日本軍では、重機関銃はもちろん、軽機関銃や小銃、果ては拳銃までも対空兵器として運用するよう戦訓に記されていた。さすがに、これらは撃墜を狙うものではなく、貧弱な火力を束ねて敵機の正面に集中させ、搭乗員に恐怖感を与えて攻撃を妨害するという心理的効果を狙ったものだ。
「二時半から敵が来たぞ! 伏せろ!」
 すぐ隣で小銃を構えていた分隊長が接近してくる敵機を認めて叫んだ。
 バッとその場の全員が頭を地面に埋める様に伏せる。今野も右手で鉄兜を押さえつけながらかがみこんだ。ビシッ! ビシッ! ビシッ! 放たれた機銃弾がすぐ脇の地面に突き刺さる。
 すでに飛行場は相当の攻撃を受けている。滑走路の奥に見えている格納庫は爆撃され、黒い煙を各所から吹きあげている。滑走路には破壊された零戦や陸攻が無残に屍を晒している。今野の所属する、第三一七大隊は、飛行場の防衛が任務なのだが、肝心の飛行場は敵が上陸する前にその機能を喪失してしまった。
「また来るぞ! 一時の方向!」
 誰かの絶叫に、その場の全員は条件反射の様に再度、身体を土にうずめた。


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