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nightmare
【レイプ 官能小説】

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後妻-1

 受話器を置く重たげな音が室内に響いた。それにつづく切なげなため息。この数時間のうちに何度も繰り返されたその光景を私はただ所在なく見守っている。
 ひとり息子の正樹が帰ってこない―――妻がそう言い出してから二時間が経つ。時刻は午後九時をまわっていた。
 誰もみていないテレビが一か月後に迫った市長選の公示日についてとりあげている。今日何度も聞いたニュースだ。
 頃合を見計らって腰をあげた私は、息子の学校の緊急連絡網に眼を落とす妻の秋穂に近づいた。
「手伝おう。あと何件残っているんだ?」
 返事をしない彼女の手もとを背後から覗き込むようにすると、襟元からのぞく白い肌が目に入った。色白の柔肌がさらに血の気を失って透きとおっていく―――そんな錯覚に襲われた。
 こんなときになにを考えているのか。不謹慎な想像を追い払うために私は少々大げさに頭を振る必要に駆られた。
「部活をさぼっているというのは本当なのか。しかも君に無断で」
 彼女が電話をかけるために中断していた話を蒸し返していた。本当は「君に無断」での部分は「私に」と言いたかった。
―――部活にはずいぶん前から顔を出さなくなったそうです。顧問の青柳先生からも相談を受けていました。
 彼女は横顔をみせたまま、共通の知人の名を挙げた。顔色は蒼白で眼の縁こそ真っ赤にしているものの、黒目がちの瞳は冷たく澄んでおり、その声音は業務連絡でも読み上げるように平坦だった。
 妻の秋穂は三十一歳。彼女とは二度目の結婚で私とは歳が離れている。中学二年になる息子は先妻の子で、当然彼女とは血がつながっていない。
 形としては職場結婚になる。私も秋穂も以前は同じ中学校に勤めていた。
「何故もっと早く相談してくれなかったんだ」
 問い詰める口調になっていた。部活のことは初耳だった。
 先妻が健在であった頃、その友人だった秋穂はよく家に遊びに来ていた。そのときの正樹は彼女に「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と懐いていたのを憶えている。
 しかし母親が死に、私たちの結婚を機に息子は変わっていった。私には冷ややかな目を向け、新しい母親に対する態度は反抗的だ。
 ただでさえ両親が教員の子供は難しい。親はつい、よその子(生徒)にばかり目がいってしまい、自分の子から目を離しがちになる。親の目が行き届かないばかりに教師の家庭がうまくいかなくなるのはよくあるケースだった。
 また聖職者というレッテルを貼られた教師は世間からなにかと注目を浴び、絶えず緊張を強いられるところがある。それが悪い形で子供にも伝わってしまい、そのせいで極端に萎縮してしまったり、逆に反発から粗暴な行動を取ったりする、心のコントロールを失った子を何人もみてきていた。亡くなった前妻も教員だったため、その点には十分注意を払っていたつもりだった。
 小学校高学年という多感な時期に秋穂を妻に迎えたのは誤りだった。そう口走りそうになったことが何度もある。
 新婚当初は若く美しい妻を得て、幸福感でいっぱいだった。だが今ではその頃を思い出すことが困難なほど、私たちの関係は冷え切っている。
 妻と無言で向かい合っているうちに時間は夜の十時を過ぎていた。ニュースのキャスターがまた市長選について触れていた。
 沈黙に耐え切れず、私が席を立とうとしたときだった。
 うつむき気味に両手で頭を抱えこんでいた妻の顔がはねあがっていた。その視線の先で携帯電話が鳴っていた。
 テーブルの上で震えるそれをはさんで妻と目を合わせていた。その表情がハッとするほど美しい。額を半分隠すように、斜めに撫でつけられた前髪―――普段は完璧にスタイリングされたセットが乱れている。ぽってりとした肉厚のくちびるが呆けたように開き、しかし、それ以上に大きく見開いた眼に一瞬狂気のような光をみた。
 電話は彼女のもので当然自分が出ようとしたが、私は一瞬早くそれを引き寄せていた。
「もしもし」
 相手は無言だった。しかし着信から息子の正樹なのはあきらかだった。
 中学二年になる息子とは、最近まともな会話を交わしていない。話しかけても煙たがられ、そもそも何を話してよいのか、わからなかった。
「もしもし」
 返事をしない相手に繰り返すと、電話は切れていた。
 妻の険しい視線が刺さった。唖然とした私からひったくるように秋穂は電話を奪い取っていた。
 それを予想していたかのごとく、すぐに着信音が鳴り響いた。 
―――友達とカラオケボックスで遊んでいたら、お金が足りなくなって店を出られなくなった。
 それが妻から聞いた、息子の帰宅が遅れた原因だった。要は金を持ってこいということらしい。
「どこの店?ちょっと、行ってくる」
―――いえ、それは私が
 妻はそう言うと、急ぎ足で部屋を出て行った。そして、戻ってきたときにはもう身支度を整えていた。
「もう遅い。私が行くよ」
 私は女の夜の一人歩きを心配した。だが、彼女は譲らなかった。
―――すぐ近くですから。それにあなたに行かれると困るんです。
 はらりと目の付近に落ちてきた前髪を秋穂はかき上げた。
 私には内緒で迎えに来て欲しいということらしい。普段は秋穂に反抗ばかりしているくせに調子のいいやつ。私は呆れながら、彼女を見送るしかなかった。


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