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白色金 (white gold)
【ファンタジー 官能小説】

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杞憂と偶然-1

 5月31日 水曜日
その日、朝から教室に彼女の姿は無かった。

(遅刻? それとも病欠?)
何となく思い浮かぶ無難な言葉。
しかしそれをここ二週間続いている“憂いを秘めた彼女の横顔”が打ち消す。

(何か困り事でも抱えているのだろうか?)
そんな様子に見て取れて、何の根拠も無かったが嫌な胸騒ぎがした。

(彼女の力になれたら…… )
もっともクラスメイトとしてすら、言葉を交わしていない僕にとって無理な話である。
昼休みが終っても登校して来ない事から、理由は解らないが休みである事を認識した。

 この時の僕に“憧れの彼女”が、薄暗い室内で深い眠りについてるなんて想像も出来なかった。
ただここ数日の様子から漠然とした不安にかられ、その身を案じ心配する事だけが僕に出来る精一杯であった。



 6月1日 木曜日
(どうしたのだろう?)
翌日の彼女は朝から青白い顔色で、心ここに在らずといった様子であった。
そして午後から早退すると、次に教室に姿を現したのは週末を挟んだ月曜日であった。

 結局この日より何の進展もなく、虚しい夏休みを迎える日がやって来る。
本来なら待ち遠しいはずの夏休みであるが、当然その期間は“憧れの彼女”を目にする事も叶わない。

何より心配なのはその後の彼女の様子であった。
上手く表現できないが、日に日に彼女が何か別の物に変わっていく様に感じられていた。
それは決して良い方向では無く、悪い方向に変わりつつあるような…… そんな違和感を覚えていた。

 そしてその変化の様な事は“僕”自身にも、何故か同時期からほんの僅かづつではあったが、確実に起こりはじめていたのだ。

最初は思考に“ノイズ”の様な物が入る違和感からはじまった。
そしてそれは徐々にその度合いを強め、時に意識や記憶を無くす時が起き始めていた。

時間にして数十秒から数分、幸いタイミング的には、日常生活に支障をきたすような物では無かった。



 7月25日 火曜日 晴れ

夏休みに入って間もないその日の夕方、偶然H駅構内で“憧れの彼女”を見かけた。

初めて目にしたお嬢様っぽい私服姿はとても新鮮かつ魅力的で、日中の暑さからぼう〜っとしていた脳を一瞬で覚醒させた。

(やっぱ、可愛い過ぎる!)
彼女の容姿ばかりに気をとられていたが、数分後その異常さに気が付く事になる。

ふらふらとした足取りで改札を抜け、駅のホームに向かう彼女。

次の上り線まではゆうに三十分以上あるのに、ベンチに座る事無く何かを待つ様に佇む。
そんな彼女が心配で、ついつい後をつけてしまう。

 ほどなくその心配が現実となる。

「あっ! あぶなっ……」
電車こそ来ていなかったが、まるで吸い込まれるよう線路下に倒れ落ちそうになる彼女。
とっさに駆け寄り抱きつく様に、それを必死で阻止する。

「……! ヤダ!」
どすっ
一瞬の間合いをおいて、“助けたはずの相手”に突き飛ばされ尻餅をつく。
それは、ひどく滑稽で無様な光景であった。

ホームに人影は少なく、彼女にとってもおかしな騒ぎにならなかったのは不幸中の幸いである。

 十数秒の気まずい沈黙の後、彼女は幾分落ち着きを取り戻す。
そして…… 精一杯の気力を振り絞り謝罪と礼を述べる。
しかしそれを終えると同時に、その場に力なく座り込んでしまう。

短めのスカートとしゃがみ込んだ体勢故、正面に立つ僕からアーガイル柄の下着が丸見えとなる。
教室で見る彼女から想像できない痴態。
当然彼女もその姿勢から、スカートの中が覗けている事に気がついてもおかしくは無いはずなのだが……

 逆に言えばそれすら気が回らないほど、憔悴しきっているのか?
少々の躊躇いはあったが誘惑に抗いきれず、狡猾にも目線を合わせるふりで彼女の前に屈み込む。


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