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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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5.つきやあらぬ-7

 その艶美な視線に震えた徹が声を荒げた。暫く体を固くして震わせていた徹だったが、耐えきれずに腰がビクンッと揺れると、男茎が激しく脈動し始めた。何度も続く。正面から見つめていた紅美子は、徹が射精する表情を見た。いつもは放出する悦びに満ちた愛しい表情なのに、今日は無念さを滲ませている。腰のスライドがゆっくりになっていき、徹は力尽きたように紅美子の肩に額を押し付けて顔を伏せた。
「……ん、徹……?」
 射精が終って暫く経っても徹は項垂れたままだった。不審に思った紅美子は、徹の体を支えて起こすと、自分も腰を引いてゆっくりと中から男茎を抜き取っていく。
「……徹?」
 紅美子に体重を掛けないように、背凭れと肘掛けに手をついて覆いかぶさっている徹は、紅美子に目を合わせようとしなかった。
「徹……?」
「……」
 もう一度問うたが言葉はなかった。紅美子が両手を伸ばして男茎の根元を握り、ゆっくりとコンドームを引き外していくと、徹は射精直後の指の接触に体を何度も打ち震わせた。
「……いっぱい出してくれて嬉しい」
 精液溜まりに溜まった白い沈殿はいつもより多く、濃厚だった。しかし紅美子が素直に嬉しみを向けたのに、徹は表情は沈んだままだった。
「ねぇ、徹。どうしたの……?」
「クミちゃん……」
 普段の呼び方に戻っていた。紅美子は結んだコンドームを持ったまま徹を見上げる。「……俺、早いかな?」
「え……?」
「だから、俺って、出しちゃうの早い?」
 紅美子は一瞬あの男が脳裏に浮かびそうになって、誰と比べようとしているのか、自分の悍ましさに慌てて打ち消した。そして突然こんなことを言い出した徹が、何かに気づいているのかという危惧がいきおい興ってきた。
「……なんでそんなこと、聞くの?」
「べ、別に……、急にそう思っただけだよ」
「ウソ」紅美子は潮に濡れる徹の顔を自分へ向けさせた。「……急にそんなこと思うわけない」
「……」
「……エッチな動画見たの?」
「み、見てないよ。……ホントに見てない」
「じゃ、なんで?」
「……」
「……徹っ。言って? 言ってくれなきゃ、狂って死んじゃいそう」
 ――徹は気づいたのかもしれない。紅美子は心臓が痛いくらいに高鳴っていた。呼吸がおかしい。早く何か言ってほしい。だが、それが最も紅美子の恐れることであれば言ってほしくない。紅美子は今ここで、急に徹を失ってしまう恐怖に奥歯が鳴った。しかも、今まで自分をとびきり愛しんでくれた徹が、最後の別れを前に自分を抱いた。性欲のために。幼馴染でも、婚約者でも、愛しい恋人でもなく、男茎を慰める雌として、最後に一度、味われたのかもしれない……。
 紅美子が様々な思いを一気に巡らせ、絶叫しそうになっていると徹がゆっくりと口を開く。
「……だって、俺……、クミちゃんに挿れてイカせたことない。いつも、すぐ出しちゃってるから……。クミちゃんのこと悦ばせることができてないし、不完全燃焼……だと思って……。動画なんか見なくたって、男が恋人をそうやって悦ばせなきゃならないくらい、知ってる……」
 徹が真顔で紅美子を見返した。その瞳に謀りはない。間違いない。本当に自分を慮って言っている色だ。
「……マジメだなぁ……」
 紅美子の胸の中の刺痛が和らいでいく。杞憂だった。「そんなの気にしなくていい……。私もすっごく気持ちいい。何回もイッてる」
「でも、挿れてるときは……」
「イッてるよ」
「でも、今……」
「だって」紅美子は微笑んで、まだ精液に塗れる男茎を握ってやさしく扱いた。「徹、絶対一回じゃ終わらないじゃん」
 嘘をついた。だが、どうでもいい嘘だ。たとえ徹と繋がって絶頂に導かれなくても、指や舌で何回も導いてくれている。今日は特に熱烈だった。不満なんか何もない。
 徹も男茎にもたらされる快楽にぎこちなく笑った。しかし、その表情は完全に晴れたとは言いがたかった。二十年も一緒にいれば、紅美子にはそれが嫌というほど分かった。
 本当に杞憂だったのか?
 そんな思いが湧いてきて、振り払うように紅美子は徹を立たせ、自分は跪づくと、幼馴染で婚約者への愛情を全て表現するつもりで、男茎を口の中に含んでいった。


 井上が近づいてきたのをタバコの火で制した。
「男を傷つけたい性癖にでも目覚めたのか?」
「話があるから、おっぱらっただけ」
「話?」
 紅美子はタバコを咥え、煙を口に溜めた後、大きく息を吸い込んで肺に入れた。なるべく時間をかけて吐き出していく。
「……そ。……あのね、もうやめない? こういうの」
「いまさら?」


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