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ひこうき雲
【SM 官能小説】

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(その2)-5

私の裸体にムラカミとトオルのねっとりとした視線が絡みつく。三十歳にしていいからだをし
ているじゃないか。実に艶めかしいというか、肌の色も初々しく肉惑もいい。それにこれから
熟れていく女の情感を十分過ぎるほど湛えている。ムラカミは小さな笑みを浮かべながら独り
言のように小さく囁いた。

いったい何ものなのよ、この人たち…。それに熟れていく女の情感なんて言われると、私は
からだの奥を掻かれるようなくすぐったさで、肌がほんのりと火照ってくるのを感じた。

お肌の張りもよくて気に入ったわ。SMビデオにはぴったりのからだといったところかしら。
トオルは猫撫のオカマ声でつぶやきながらも、ゆっくりと私のからだの線にいやらしすぎるほ
どの視線を這わせた。

SMにぴったりのからだってどういう意味なのか理解に苦しむ。私はふと別れたクノキのこと
を思い浮かべた。以前に彼も同じようなことを言ったような気がする。


目の前のふたりの男の視線は、首筋から乳房の谷間を這い、乳肌に吸いつく。なぜかひとりで
に乳首が感じ始める。そして、その視線は下腹部へとゆっくり這い、秘丘から柔らかい白い腿
の付け根へと這い始める。やがて私の繊毛の繁みをまさぐり、さらに靡いた淫毛を淫猥に絡め
ながら肉の合わせ目へと忍び込んでくる。

やめて欲しいわ…まだ、撮影の本番でもないのに…と心の中で密かに思いながらもその淫靡な
感触に刺激されたように変な気分になる。

あのう、もういいでしょうか。私はムラカミとトオルの視線を振り払うように言った。
いや、すまないな。あまりに魅力的なからだだったのでつい夢中になってしまった。怒った顔
がまたかわいいぜ。責め甲斐のある女ってところだな。ムラカミはそう言いながら、ふたたび
葉巻に火をつけた。


場所を変えながら一週間に一回程度の撮影で一か月間かけてAVを撮ることになるらしい。私
たちは、渋谷のオフィスを出ると撮影場所のひとつとなる都心の小さな廃ホテルの地下室を下
見にいく。

よくこんな場所を見つけたものだと感心する。売りに出された建物だが、地下室は特別な部屋
だった。レトロな鉄製の洋燈が妖しく照らし出す部屋の石張りの床には、黄ばんだ和式の便器
が剥き出しのまま埋め込まれ、鉄格子で仕切られた牢獄のような部屋の隅の方には犬小屋ほど
の頑丈な鉄檻が置かれていた。さらに色褪せたコンクリートの壁には四隅に革枷のついたX字
の磔木が打ちこまれ、高い天井の鉄パイプからは不気味な鎖が幾本も垂れ下がっていた。

いったい何なのよ、この部屋って…。

素敵な場所じゃないの。SMにはぴったりの場所だわ…と、トオルがガムを噛みながらいつも
のオカマ声で言う。以前は、会員制のクラブのSMプレイルームとして使用されていたらしく、
SM用の調度品はどれも年季ものだった。私はその場所に立ちすくんだまま背筋に微かに冷た
いものを感じた。



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