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ある官能漫画家の若き肖像
【ラブコメ 官能小説】

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遠藤家の家庭の事情-1

「私と結婚してください」
まだ十八歳の楓は本気だった。
まだ桂太と出会う前の高校生の楓は、大学生の家庭教師に告白した。
その家庭教師の若者は、翌週から遠藤家には来なかった。女性の家庭教師がその代わりに来ていた。
大学生の家庭教師は楓に告白されてキスしたことを楓の母親に伝えて、楓の家庭教師であることを辞退したのである。
その二年後、楓が大学生になった頃にイギリスに留学していて、その家庭教師の男性を見つけた。
秋の夕暮れ時に路上の大道芸人となって元楓の家庭教師はヴァイオリンを弾いていた。
楓の家で働いていた頃よりも痩せた気がする。見物客からリクエストを聞いて即興でアレンジを加えていき弾くのである。
曲を弾き終えた日本人の大道芸人に拍手していた少女が立ち去ると客が誰もいなくなった。
「真、おつかれさま」
ヴァイオリンをケースにしまっている真のそばに壁にもたれていた青年が、大道芸人の背中にそっと抱きついた。
「もう日が暮れるから帰ろうよ」
「そうだね、帰ろう」
楓は二人が手をつないで帰って行く姿を建物のかげから見ていた。楓の告白の返事をせずに姿を消した家庭教師が、なぜ楓の頭を撫でただけでいなくなったのかを楓は理解した。
それまでは、まだ若すぎたからだと楓は思っていたのである。遠目でも恋人どうしだとわかる二人に楓は声をかけるのを躊躇した。
楓が日本に大学を中退し、父親にわがままを言い留学して、帰国後アクセサリーの輸入の小さな店の経営を任された頃に、大道芸人をしていた楓の忘れられない男性は新人賞を受賞して作家となっていた。
楓は純文学の小説などを読んだことはなかったが、遠藤真という名を書店で見かけて購入してデビュー作ではなく、そのあとに書かれた短編小説をファミレスで読んでいて泣いてしまった。
イギリスで大道芸人として暮らす若者とスラムで暮らす若者が恋愛して同棲していた。ゲイのコミュニティが集まる集会に恋人に連れられて出かける。
そのコミュニティのリーダーのことを尊敬していると恋人の若者が話すのを聞いて、主人公の若者は嫉妬したのだ。一生つきあっていく気がないならケビンと別れて日本に帰ったほうがいいとそのリーダーの男性は穏やかな口調で主人公に言った。
思い悩んでいた主人公は一度、母親が死んだという知らせを受けて帰国することになった。
一ヶ月ほどして再びイギリスに訪れた主人公は恋人の死を知らされる。主人公がいない間にゲイであることをカミングアウトした演説を公園でした恋人の若者は翌日に殺害されていた。犯人は捕まっていないが現場には殺害動機が書かれたメモが残されていた。
同性愛者に対する差別意識を持つ者が、みせしめとして主人公の恋人ケビンを殺害したのだった。
なぜ日本へ連れて帰らなかったんだと言われて、主人公は落ち込み、恋人と一緒にいた街角に立ち、恋人の好きだった曲を主人公はヴァイオリンで演奏した。
楓はその小説を読んで、その街角がどこなのか思い浮かべることができた。
楓は作家になった遠藤真に会いに行った。
二十一歳の誕生日に、楓は十八歳の頃と同じように遠藤真に告白した。
「私、イギリスで真さんが恋人と手をつないで歩いているのを見たの。それに小説を読んでわかった。でもそれでもいいと思ったの。私と結婚してください」
楓は結婚している。桂太はまだそれを知らなかった。桂太は楓の暮らすマンションの部屋に行った。
桂太は手首と足首を手枷足枷で拘束されて、さらに目隠しまでされて撮影されていた。
コンドームをかぶせた桂太の性器を撮しているとき、桂太は寝室に自分と楓以外の誰かがいるのに気がついて悲鳴を上げた。
桂太はその時、自分が何をいったのがよくおぼえていない。たぶん「誰かいる、楓さん、誰かいるよ!」とわめき散らしていたと思う。
楓はそれでもまだ勃起している桂太の上に乗って、騎乗位で桂太の胸板のあたりに手をついて、ぬちゅっ、と挿入した。
「んあぁっ、んっ、あぁぁっ、ああっ、あっ……桂太君っ、んあぁぁっ!!」
桂太は両手両足を大の字に広げた仰向けで、楓の腰づかいが激しくなると、頭の中は混乱しきっていたが、ぺニスに伝わってくる楓の膣内の刺激にうながされて絶頂まで上りつめていく。
「真さん……んっあああぁぁっっ!!」
桂太がまだ脱力してコンドームをつけたままでいる隣で、桂太にまたがっていた楓がベットから降りて愉悦の声を上げた。
リビングで三人がソファーに座っていた。
桂太の向かいには、うつむいている楓と背が高い痩せた繊細そうな、それでいて優しげな顔立ちの見た目は三十代ぐらいの男性が並んで座っている。
桂太には、二人が映画の主人公とヒロインのように桂太には思えた。美男美女の二人の前で腕を組んで話を聞いている桂太は、遠藤真の声が落ち着いたとてもいい声だと感じていた。
桂太と楓がつきあっているのを遠藤真は認めていた。
「ごめんなさい」
楓が涙目で桂太に震える声であやまった。
遠藤真は楓のことが嫌いなわけではなかった。しかし勃起しきれず萎えてしまう。医師に相談に行ったこともあった。恋人の死のショックのせいではないかと医師は診断した。
遠藤真は、パソコンから楓と桂太がネット上で親しくなっていくのをずっと見ていた。
楓に桂太に告白させたのは真だった。
楓が撮影してきた桂太の痴態の映像を見て、真は勃起した。
「楓さんは、俺をだましていたの?」
「悪いのは僕だ。楓だって誰でもいいわけじゃない。桂太君のことは嫌いじゃないんだよ。ただ楓は僕との子供がほしかったんだ」
「人工受精も試してみたの、でもダメだった」
人工受精の成功率は5%から10%しかないらしい。それでも楓はあきらめきれなかった。
「楓を許してあげてくれないか。僕が悪いんだ」
二人の話を聞いているうちに桂太は複雑な思いにとらわれてしまった。驚き、腹を立て、あきれて、それでも楓のことは好きで同情すら感じた。


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