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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 後編-5

「あんたたち案内する気あるの?」
ラーダが飲み終えたジョッキを、わざと音を立てながらテーブルに置いた。
スーラが黙って椅子から立ち上がる。
二人は挑発している。
テーブルに金貨を一枚置いてラーダも立ち上がる。
「ま、まちやがれ」
スーラの肩に手をかけたコボルトの頬が平手打ちされて、派手な音を立てた。
酒場の中が騒然となり、関係ない客たちがざわつき出すと、引き下がれなくなった最初に声をかけてきたコボルトが殴ろうと思った時には、ラーダの剣先が喉元に突きつけられていた。
「手加減なしなら死んでるよ」
「そこまでにしてやれよ、シルヴィア」
店の薄暗いテーブルから声がかけられた。
スーラがそのテーブルのほうを振りかえる。
「悪いな親父、これでここに残ってる連中に飲ませてやってくれ」
金貨の入った小袋が酒場の店主に放り出された。店主があわてて受けとる。
「隣にいるのはシーラか?」
「ギル様……」
スーラがそう言ったあとは、もう涙が溢れて言葉が出なくなった。
「また会えるとは思わなかったぞ」
左目に眼帯をつけた狼の頭部を持つ逞しい体つきの男が二人のそばに近づいた。
「コボルトというより狼男じゃない!」
「いちおうコボルトだぜ」
他のコボルトよりもかなり体つきが大きい。
「ここは騒がしい、出よう」
再会した三人は店を出てジェフのアジトに行った。街の裏路地の宿屋である。受付で「いらっしゃいませ」とコボルトの少女が二人に頭を下げた。
「マリー、母さんは?」
「お仕事だよ」
「すまない、少し店番かわって休ませてやりたいんだが、先に部屋で待っててくれるか?」
「店番をするんですか、ギル様?」
スーラはそう言うと料金をマリーに聞いて「お姉さんにまかせて」とにっこりと笑った。
ラーダがその笑顔を見て、ずいぶん久しぶりにスーラの笑顔を見た気がした。
母親が死んでから、あまり笑わなくなった。笑うのは父親に心配かけないように気づかうために笑顔をつくろうときだけだったからだ。
「マリー、めしは食ったか?」
「まだ食べてないや」
「酒場で好きなもん食ってきな」
「いってきまーす」
少女がかけ出していく。
「あいかわらず、小さい女の子にはもてるのね」
ラーダが言うと「まあな」とジェフが言った。
しばらく三人で店番をすることにした。
「この宿屋は寄宿舎みたいなもんで空き部屋は四つしかない。あとはこの街の娼婦たちに格安で提供してるんだ」
ディルバスはコボルト族の女性たちを娼婦として働かせていたのだ。
バルディスは客が払った金の八割をせしめていたが、ジェフは八割を娼婦に渡して、二割は娼婦が仕事を休んだ日でも困らないようにあずかっておいて、月に一度まとめて支給していた。
バルディスはこの街の市場の権利を握っていて店を出すには一日ごとに金を徴収していた。
「バルディスが、がめつい奴でよかった。徴収額を値下げ調整しただけで商人たちから感謝された。俺なら払いたくないと暴れるところだがな」
手下に渡す金も少し増やして納得させたらしい。
「領主はバルディスが死んでからは賄賂を要求しなくなったな。俺がバルディスを殺したって噂になってるらしい」
もともと海賊の頭領の知識と経験がある。街を仕切るぐらいは余裕なのだろう。
カラーム島の滅亡についてラーダが話した。
「へー、今は魔道師は王女の側近で、ホムンクルスは王子かよ。他のみんなも生まれかわってるのか?」
「ポチちゃんもね」
幼児に変身できる赤竜の名前はポチといった。
「無名祭祀書の老師様はまだ書物ですけどね」
「そうか、あの魔法の本もまだあるのか」
スーラにそう言うと、懐かしそうに元海賊の頭領は目を閉じた。
前世での冒険を思い出しているのだ。
「なあ、シルヴィア。故郷の島も大陸も消えて、俺もコボルトになって、遠い未来にいるのに、何もかわってない気がするな」
「そうね」
いにしえの神々が存在していて、姿はちがっていても人は毎日を一生懸命に生きている。
「今の私はシルヴィアではなくてラーダ、妹はシーラではなくてスーラよ」
「姉妹かよ」
前世で愛人シーラを抱きながら、剣のライバルだったシルヴィアに恋焦がれていた。ギルは最後の戦いの前に、シルヴィアの唇を奪った。そして恋心を告白しただけだった。
(ギルは「生きて帰ったら俺の女になってくれ」って言ったけど、今でも忘れてないかしら?)
ラーダが胸がしめつけられるような気持ちになった。
(ギル様は生まれかわってもかわらない。今度こそ一生添い遂げてみせる)
スーラはやはりこの人しかいないと思うのだった。
「たらいまー」
顔を真っ赤にした少女コボルトが戻ってきてジェフに抱きついた。「あたし、おっきくなったらジェフのおよめさんになってあげるねぇ」
「誰か酒を飲ませやがったな!」
ラーダとスーラは顔を見合わせてくすくすと笑った。
「かわいい婚約者ね」
「ポチにもそう言われたことあるぞ」
ポチは今はセリアーニャになっていて、かなりの美人になっていることを、もうしばらくジェフに黙っていることにしようと姉妹は思った。
三人が再会している頃、セリアーニャはさやかの作った料理の味を大絶賛していた。
無名祭祀書は料理を教えるのが趣味。それを思いだした少年魔道師は、気落ちしているさやかに無名祭祀書を手渡したのである。
「うまい」
ガーヴィがさやかをほめた。
けなしたり、厳しく説教したりしないが、ガーヴィは口数が少なくあまりほめたりもしない。
(やった、ほめられたっ!)
王女エルシーヌと少年魔道師も、さやかがガーヴィの言葉を聞いて笑顔になったのを見て微笑していた。
考古学者メリル・ストリは王都にある賢者の塔の膨大な蔵書で確認作業に没頭していた。
前世で少年魔道師が作り上げたダンジョンについて、探りだそうとしていたのである。







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